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 爽多はバスケ部の二年生で、環奈とはクラスメートではなく、部活も違ったが、選択授業でよく隣の席になった。その選択授業の最中、話があるという内容のメモを渡された。ぶっきらぼうで、正直あまり綺麗な書き文字ではない。

「俺、今度試合出られることになったんだ」
「わぁ、すごいじゃない。練習頑張ってるんだね!」

 大袈裟に聞こえるほど明るい声を出すと、爽多は得意げな顔になる。
 しかしそんなことわざわざ呼びつけてまで話すことではない。授業が終わったあとの休み時間に、世間話する暇くらいあるだろう。それが本題なのだろうか、と表情に出たかもしれなかった。

「俺、レギュラーになれたら、言おうと心に決めていたことがあったんだ」

 少し爽多の声が大きくなる。なんだか大袈裟な前振りだ。

「環奈ちゃんのこと、ずっといいなーって思ってて。ほら、去年の文化祭、演劇部で舞台上がっただろ? あの時からめっちゃ可愛いなって、……つまり、好きってことなんだけど」
「えっ」

 わざわざ呼び出すに値する内容ではあった。
 しかし環奈にしてみればあまりに唐突で、いきなり何を言うのかという感じだった。
 これまでそんな空気は感じ取れなかった。単なるたまに隣の席になる人、という認識でいた。環奈が鈍いのだろうか。確かに昨年環奈は、端役ではあったが舞台に上がった。今は副部長をしている。

 爽多は冗談を言っているふうではない。どう答えようか迷っていたら、禅一がトレイを手にやってきた。

(さっきの、聞かれた……よね)

 禅一の耳にも、先程の告白は届いたに違いない。けれどそこは客商売、別段普通にドリンクがテーブルに置かれ、すぐに去ってゆく。

(動きがスマート……無駄がない)

 目の前の爽多を置きっぱなしにして、環奈は禅一の動きを目で追ってしまった。それに気づいているのかいないのか、爽多が続ける。

「だから、試合見に来てほしい」
「えっ? 付き合って、じゃなくて試合?」
「試合で、俺のかっこいいとこ見せるから! そんで好きになって」

 好きだから付き合ってください、と繋がるのかと思いきや、予想とは違っていた。断られると思ったのだろうか?
 試合を見に行くだけとなると、なんとなく断りにくい。日にも寄るが、行けないこともなかった。

「試合……見に行って、あたしが爽多くんを好きにならなかったら?」
「えっ?? まだ考えてないけど、……そしたら、次の手を打つ」
「うぅん……」

 環奈は悩んでしまった。今この場で、付き合ってくれと言われたら、多分断った気がする。爽多を深くは知らないし、これまで意識したこともなかった。
 客観的に見たら、意識したこともないのに二人でカフェに来るのかという疑問もあるかもしれない。けれど本当に他意はなかった。

「か……考える時間が、欲しい、かも」

 とりあえず即答を避け、少し一人で残ると言って、コーラを飲み干した爽多だけ先に帰って貰うことにした。ちょっと渋られたが仕方ない。一緒に帰るのはなんとなく嫌だった。

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