第69話 肩慣らし
今僕とミューは帝国内最大の残された森近くの城塞都市ラーカルに来ている。残された森とは人間の領域を広げていく中で様々な理由により攻略をされず残った魔獣の住む森の事。残された森の多くは生息している魔獣が強すぎる、もしくは地形が攻略に向かないといった理由で残されている事が多い。そんな残された森からは不定期にスタンピードが起こり対応を誤ると大きな被害が出る。そこで、そういった残された森の中でも規模やその森に生息する魔獣の強さによっては砦が築かれ多くの兵が駐屯し、監視と防衛の役割を果たしている。ラーカルはそういった成り立ちの都市の中でも特に頑丈な城壁を持つ古く大きな城塞都市だ。スタンピードの間隔は比較的長いものの発生するとその規模や溢れ出す魔獣の強さが他とは桁違いなため非常に重要視されている。そしてそのラーカルの騎士団に僕とミューはグラハム伯の側近として訪れている。とは言え屋敷でのような服装ではなく動きやすい街着に両腰に剣をぶら下げるという上級冒険者らしいごく普通の服装だ。ただし、この辺りになるとフェイウェルとミーアの顔を知っている人間がいる可能性があるため、僕たちは仮面をかぶっている。そして騎士団を訪れているだけならばいいのだけれど、今はスタンピードの予兆があるとの事で、その対策会議中なのだ。一般の冒険者としては非常に居心地が悪い。騎士団の面々からも胡乱な目で見られているのが分かる。
「グラハム閣下、今回スタンピードの予兆があるので援軍をお願いしたはずなのですが」
「ルーカス騎士団長、そう興奮しなくても分かっている。だから強力な援軍を連れてきている」
「連れてきていると言われるが、いつもの護衛以外にはそこの怪しい仮面の冒険者2人しかいないではないですか。ひょっとして都市外に」
「いや、この2人だ。ファイとミュー。噂くらいは聞いているのではないか」
「この2人がそうなのですか。常に2人で行動し、上級魔獣はおろかキュクロプスアンデッドさえたった2人で討伐したという冒険者ですか」
「そして今では剣聖ブランカの弟子でもある」
「剣聖ブランカの」
「そして彼女の言葉を伝えよう。この2人は既に対魔獣戦闘においては剣聖ブランカを大きく超える戦力だと。むやみに大規模戦力を揃えるより対スタンピード戦ならばこの2人に自由に戦わせた方が成果は上がる。この2人は万の軍勢に勝ると。これが剣聖ブランカの言葉だ」
僕は背中に冷たい汗を感じていた。グラハム伯、僕たちを売り込むのはいいけれど、あまり煽らないで欲しい。口を挟める状況ではないけれど、隣でミューも微妙な雰囲気を出している。ここは逃げ出したいので
「グラハム伯、今日はこの程度でいいですか。できれば森の下見と多少の魔獣の間引きをしてきたいのですが」
「おお、さっそく動いてくれるか。何か希望はあるか」
「そうですね、倒した魔獣の処理をしてくれるサポート部隊がいると手間が省けます。お願いできませんか」
「ふむ、どのくらいの数を狩るつもりだ」
「魔獣の集まり具合次第ですが、とりあえず初日は50体くらいかと」
「な、50体だと」
ルーカスさんが呻いた。
「まあ、あまり急激に間引くと魔獣を刺激してスタンピードのきっかけになりかねないですから、今日はその程度で。様子を見て明日以降は数を調整します。うまく間引いてスタンピードにならないように出来たら最高ですけど。さすがにそれは無理だと思いますので。できるだけ小規模になるように間引きますよ」
「そういう事ではない、知らないだろうから教えてやるが、ここの残された森の魔獣は低位の魔獣などいない。最も低位でも上位に近い中位の魔獣だ。そう簡単に討伐出来るものではないぞ」
ルーカスさんの言葉にグラハム伯が返していた。
「2人には、そのあたりの説明はしてある。なにこの2人ならば問題ない。そうだなファイ、ミュー」
「ええ、久しぶりの魔獣狩りでもありますし、そのくらいなら肩慣らしと新しい剣の試し切りには丁度よさそうです」