幕間『深夜の交差点、正義の執行』
三人一緒で同じベッドに寝た夜、俺は奇妙な夢を見ていた。
辺りに広がる景色は俺たちの住んでいる街並みによく似ていて、時刻は人通りがなく車通りも少ない深夜だ。街灯の明かりぐらいしかない暗闇の中で、誰かが道路の真ん中を鼻歌混じりに歩いていた。
その人物の姿は黒く塗りつぶされたように隠され、どんな容姿をしているか分からない。身長や微かに聞こえる声で少女だと思ったが、確実と言えるほどの確証はなかった。
(……なんでこの子は、こんな時間に出歩いてるんだ?)
声を掛けてみようとしたが、黒い影は俺に反応を示さなかった。やはりこれはただの夢で、特に意味も理由もない光景なのだろうか。そんなことを考えていると、遠くの街並みからトラックらしき車のハイビーム光が辺りを眩く照らした。
黒い影は避けようともせず、道の真ん中に立ち続けていた。するとその存在に気づいたのか、トラックはけたたましくクラクションを鳴らした。次いでギィッとブレーキ音が響き渡り、トラックは車体をわずかに斜めらせて停車した。
「――――おい! そんなとこで突っ立ってんじゃねぇぞ! 死にてぇのか‼」
中年ぐらいの運転所は窓から顔を乗り出し、黒い影に向かって叫んだ。どうやら彼には黒い影が人の姿として映っているようで、外見に驚いている様子はなかった。
「へぇ……、今日はちゃんと止まってくれるんですね」
黒い影から聞こえてきた声に、どことなく聞き覚えがあった。誰だろうと疑問を浮かべる前に影はトラックへと近寄り、三メートルほどの距離で立ち止まった。最初は強気だった運転手も、異様な雰囲気を感じ取ったのか表情に脅えが見えた。
「……あなたみたいな人がいたら、私は安心して旅立つことができません。だ・か・ら、脅威の排除のために正義を執行します」
そう言いながら人型の黒い影は、右手を夜空に高く掲げた。するとそこには漆黒の魔力らしきものが集まり、最終的に渦を巻きながら球状に変化した。
「ひっ⁉ ばっ、化物⁉」
「化物とは酷いですね。私は光の御使い様に選ばれた、救世の勇者なんですよ?」
黒い影は漆黒の闇を放ち、それは瞬く間にトラックを巻き込んだ。逃げ出すこともできず運転手は叫びを上げるが、音は徐々に闇に飲まれて消えた。そして闇が完全に消え去ると、そこにはトラックも運転手もいなく普段通りの道路があるのみだ。
「――――さぁ、まだまだ行きましょう。すべては、より良き旅立ちの日のために」