YA・SU・ME! その3
ララコンベ温泉で一泊した翌日、ガタコンベに戻ってきた僕ですが……とにかく何もさせてもらえていません。
家に帰るなりベッドに直行させられた僕なのですが、そのベッドの周囲にパラナミオ・リョータ・アルトが交代しながら常に誰かが控えていまして、僕が起き上がろうとすると
「パパ、なんでしょう! おトイレ以外のことでしたらパラナミオが全部代わりにしますよ!」
とか言いながら即座に駆け寄って来るわけです。
しかも、赤ちゃんモードのムツキが僕の横で寝息をたてているんですけど、ムツキは僕が上半身を起こす度に目をパチッとあけて、じーっと僕の行動を観察しているんですよね。
そんな感じで、超厳戒態勢で休養させてもらっている僕なわけです、はい。
スアは、食事の際に毎回飲み薬を準備してくれています。
「これは、どんな効能があるんだい?」
興味もあってスアにそう聞いてみたところ、
「……滋養強壮、体内から元気にする、の」
とのことでした。
で、食事を食べて薬を飲むと、僕はベッドの上で上半身を起こしたままスアの魔法による治療を受けます。
スアの魔法なら、一発でどーん!と元気になってしまいそうなもんですけど、
「……今の旦那様は、ダメ」
そう言われてしまいました。
なんでも、今の僕は慢性的に疲れが溜まっていたせいで体の芯から疲れている状態らしいです。
スアの飲み薬のおかげで元気になったような気がしていますが、根本的な疲労回復にはいたっていないと言いますか、僕自身の体の回復機能が相当低下しているんだとか。
それを強制的に元気にすることは出来なくはないそうなのですが、それをしてしまうと体の中に疲労が残ったまま、元気になった気がしちゃうだけだそうで、これだとまたどこかで疲れが溜まりすぎて同じ事になってしまうんだとか。
なので、今のスアは僕の低下している疲労回復機能を元気にするために、食事の度に僕に回復魔法をかけてくれているわけです。
スアは、僕の背後に回り、ちょうど首の裏あたりに手をあててきます。
スアが詠唱を始めるとその手がとても温かくなってくるのですが、同時に僕の体の心がほんわか温かくなってくる気がします。さらに、脳みそがほわ~ってなっていくんですけど、あまりの気持ちの良さに、僕は毎回ここで寝入ってしまいます。
で、目覚める度に体の奥底にこびりついていたような疲労感がなくなっていってるのを実感出来ています。
「……寝るのはとってもいいの、よ」
目を覚ました僕に、スアはそう言いながら微笑んでくれています。
その日の夕方、3号店のエレがお見舞いに来てくれました。
木人形のエレは、
「お体を悪くされたとお聞きしまして」
そう言いながら、店の裏で栽培している果物をいくつかお見舞いの品として持って来てくれました。
で、そんなエレを見ながら、スアがびっくりしていたんですよね。
スアによると、
「……木人形はね、普通お見舞いとかする感情までは持ち合わせていない、の」
そう言ったんですよね。
「え? そうなんだ」
僕はその言葉にびっくりしたものの、エレはこうしてお見舞いに来てくれてますし、はて、これはどう考えたらいいんだ?
僕が首をひねっていると、エレは
「店長様にはいつもよくしていただいております。そんな店長さんが体を悪くされたとお聞きしましたら、私、いてもたってもいられなくなってしまいまして……」
エレはそう言いながら、その顔に心配そうな表情を浮かべていました。
「ありがとうエレ、みんなのおかげで元気になってるからね」
僕がそう言うと、エレは今度はどこかほっとしたような表情をその顔に浮かべていました。
エレが転移ドアをくぐって3号店に帰っていくと、スアは腕組みしながらその後ろ姿を見送っていたのですが、
「……木人形に、感情が芽生えて、る?」
そう言いながら首をかしげていました。
それがどういうことなのか、僕にはよくわからなかったのですが、スアは、そのうち改めてエレを調べてみると言っていました。
で、そんなエレが帰った後なのですが、
「スア様の旦那様、大丈夫でございますかな?」
そう言いながらやってきたのはタルトス爺達でした。
スアの使い魔の森に住んでいる使い魔の皆が、僕のことを心配して様子を見に来てくれたんです。
タルトス爺を中心にしたお見舞い部隊を編制してやってきてくれたスアの使い魔の皆。
タルトス爺の他に、キキキリンリンや酒の妖精バルンカッス、シオンガンタやハニワ馬のヴィヴィランテス達が手に手にスアの使い魔の森で製造している商品を持ってお見舞いに来てくれていました。
いつも毎朝僕の顔を見ては『相変わらず人使いが荒いわぁ』とか『少しはねぎらってほしいわねぇ』とか文句ばかり言ってくるヴィヴィランテスも、
「アンタがいないと、ちょっと張り合いがないのよねぇ。早く元気におなりなさぁい」
そう言いながら、僕にお見舞いの品をくれたんですけど……素焼きのハニワ馬像をもらってもなぁ……
「森の皆も心配しておりますが、まずはとにかくしっかりとお休みくだされ」
タルトス爺の言葉に、一緒にお見舞いに来てくれていた使い魔の皆も笑顔で頷いてくれていました。
「ありがとう皆、とにかく今はしっかり休ませてもらうよ」
そんな皆に、僕は笑顔で答えていきました。
で、その後ですが、
2号店から戻って来たシャルンエッセンス
狩りから戻ってきたイエロとセーテン
ブラコンベのペリクドさん
ティーケー海岸のファラさんとアルリズドグさん
とまぁ、コンビニおもてなしに関係のある皆さんが次から次へとお見舞いに来てくれました。
さらに翌日には、テトテ集落のネンドロさんやリンボアさん、オトの街からネリメリアさんやラテスさん、ルシクコンベからグルマポッポさんまで心配して様子を見に来てくれました。
ルアとオデン六世も毎日のように顔を出してくれていますし、オルモーリのおばちゃまとパラランサも、ヤルメキスと一緒に様子見に来てくれています。
魔王ビナスさんに至っては、内縁の旦那さんと、内縁の妻の皆様を数人一緒に引き連れてお見舞いに来てくれた次第です。
なんか、僕がこの世界にやってきて関わった皆さんが僕の事を心配してお見舞いに来てくれているわけです。この世界にやってきてまだ1年とちょっとしか経っていない僕ですが、そんな僕のためにこんなにたくさんの方々が心配してお見舞いに来てくださるなんて、そう思うと、本当に感無量だったわけです。
そんな感じで感動していると
「ステルちゃんの旦那様大丈夫ですかぁ?」
って言いながら、今度はスアママこと魔女魔法出版社長のリテールさんが、社員のダンダリンダと一緒にお見舞いにきてくれました。
同時に、魔女信用金庫の単眼族ポリロナと巨人族のマリライアが
「店長さんがご病気と聞いて」
「お見舞いのために私達参上!」
っていいながら入り口のところに姿を現すと同時にポージングを決めていった次第です。
で、みんな菓子折とかをお見舞いに持って来てくれていたのですが、そんなお見舞いの品を僕に渡したリテールさんは、
「ステルちゃんの旦那様。お礼は元気になられてから体でお返し願えたら幸いですわ。うふふ、ステルちゃんの妹か弟」
そう言いながら頬を染めていたのですが、そんなリテールさんの姿は一瞬後、僕の目の前から消え、同時に家の裏にある川の方から「あ~~~れ~~~~」っていうリテールさんの悲鳴とともに、何かがどっぼ~~~んと落下していく音が聞こえて来た次第です。
「……まったく、相変わらずひどい、わ」
そんなリテールさんがさっきまで居た場所のすぐ後方に姿を現したスアが、頬をぷぅっと膨らませていました。
まぁ、確かに今のは時と場合をわきまえて欲しかったとは思ったものの、一応お見舞いに来てくれた人を川に放り込むのはどうなんだろうと思った僕だったわけです、はい。
こうして、僕はあと数日、スア達家族に見守られつつ、みんなのお見舞いを受けながらのんびり休養させてもらった次第です、はい。