コンビニおもてなしと定期魔道船 その1
しっかり1週間お休みさせてもらったおかげで、僕はすっかり元気になりました。
僕自身、まさか自分がここでひどく疲労していたなんて夢にも思っていなかっただけにびっくりだったわけですけど、とにかく今後はよくよく自分の体のことに気を配りながら頑張って行こうと気持ちを新たにした次第です。
ちなみに、今回の僕の一件を受けてスアは疲労回復薬の仕様を若干変更しました。
薬の効果が切れた際に今回の僕みたいにドドッと疲れが押し寄せてくる可能性が予見されるような過度の疲労状態の人がこの薬を飲もうとした場合、その眼前に
『あなたは過度の疲労状態であると認められます。休養を強くお勧めします……』
といった警告文が表示されるように、新たな魔法を付加したそうです。
普通の魔法使いがこれをやろうとするとかなりの手間と魔力がかかっちゃう作業なんだそうですけど、スアによると
「……別に、たいしたことない、よ」
ってことになってしまうそうなんですよね。
最初はスアが無理をしてるんじゃないかと思ったんですけど、その作業を見ていたテリブルアによると、
「すげぇな……全然魔力を消費しないで警告魔法を追加してるよ……まじかぁ」
って目を丸くしてたんですよね。
と言うわけで、僕も元気になりましたのでコンビニおもてなしもいつもどおりの営業に戻ることになりました。
久々に夜明前に目を覚ました僕の周囲にはパラナミオとリョータがガッチリと両腕に抱きついた状態で寝ていました。
もう今日から大丈夫だって言っておいたのですが、この1週間の間にすっかりこの体勢が普通になってしまったようです。
で、2人を起こさないように手をはずし、ゆっくりベッドを降りようとしたらですね、
「……大丈夫?」
後方からスアの声が聞こえてきました、
振り返ると、そこにはベッドの上で上半身を起こしたスアの姿がありました。
いつもでしたらまだ寝ているはずのスアですけど、やはり心配してくれているようです。
僕は、そんなスアの方へ歩み寄って行くとその耳元に口を寄せ、
「ありがとう、もう大丈夫だよ」
そう言い、スアにそっと口づけていきました。
スアは、まだ少し心配そうな顔をしてましたけど、
「……あとでアナザーボディ、送るよ」
そう言い、手を振りながら僕を見送ってくれました。
いつものように廊下を抜けて厨房へ移動すると、すでにいつものみんなが作業を始めていました。
そんな皆は、僕が厨房に入ってきたのに気がつくと一斉に手を止めて僕へ視線を向け、
「店長様、おはようございます。もうよろしいのですか?」
「て、て、て、店長様、ま、ま、ま、まだ無理はだめでごじゃりまするよ」
などと、僕の身を案じてくれつつも笑顔で迎えてくれました。
僕は、そんなみんなに笑顔を返しながら、
「うん、ありがとう、もう大丈夫だよ。色々迷惑かけてごめんね」
そう皆へ声をかけると、魔王ビナスさんの横へ移動していき調理作業を開始していきました。
一週間ぶりとはいえ、何年もやっていた作業ですしね、すぐに体が動きを思い出してくれたもんですから僕はすぐに以前と変わらないペースで作業をこなしていきました。
その様子を横で見ながら自分の作業していた魔王ビナスさんも
「さすがは店長様でいらっしゃいますわ。もうすっかりお元気な際と同じ動きに戻っておられますわ」
そう言いながら感心してくれていました。
なんといいますか、いつも隣で作業してくれている魔王ビナスさんの言葉なんで、ちょっと嬉しかったりした次第です。
で、しばらくするとハニワ馬のヴィヴィランテスが荷物を積み込みにやってきました。
「あれ? ヴィヴィランテス、いつもより少し早くないか?」
僕がそう言ったのも無理はありません。
まだ僕だけじゃなく、魔王ビナスさんも作業が終わっていませんし、ルービアスも弁当を詰めている真っ最中だったんです。
すると、ヴィヴィランテスは
「あぁ、気にしないでいいわ。これを渡すように頼まれたから少し早めにきただけだから」
そう言ってヴィヴィランテスが自分の首に付けている魔法袋から口で起用に取り出したのは、果物がいっぱい詰まったカゴでした。
「今日から復帰なんでしょ。これ、使い魔の森のみんなからよ。くれぐれも無理しないでねぇ」
ヴィヴィランテスは、いつもの皮肉も嫌みもない、普通の言葉を僕にかけてくれました。
僕としては、いつものように皮肉と嫌みがあった方が現場に戻ってきたなぁ、って実感出来てよかった気がしないでもないんですけど、ここはおとなしく得画を浮かべていきました。
「ありがとうヴィヴィランテス。みんなにもよろしく伝えてくれるかい? またあらためて挨拶にいかせてもらうけどさ」
「了解したわ。でもね、くれぐれも無理だけはするんじゃないわよ」
その後、30分ほどで調理作業を終了させた僕は、ルービアスと魔王ビナスさんと一緒に弁当つめをしていきました。
その間に、テンテンコウのパンとヤルメキスのスイーツを先に魔法袋に分けてもらいまして、最終的にはいつもぐらいの時間に作業をすべて終えることが出来た次第です。
で、開店したコンビニおもてなし本店のレジに立っていると、常連のお客様達が
「お、店長もういいのかい?」
「無理しちゃダメだぜ」
そんな声をかけてくださりながら、
「よし、店長の復帰祝いだ! 今日はいつもより多めに買っちゃうぞ」
「おぉ、俺もだ!」
皆さん、笑顔でそう言ってくれました。
そう言ってくださるのはすっごく嬉しかったのですが、そんなお客様達が手にしてるのって、ことごとくがお一人様1日5本までって販売数制限してるスアビールでして、それを僕の復帰祝いにかこつけて10本とか20本カゴにいれてレジに来てるんですよね。
うん、お気持ちはありがたいけど、それは駄目だから。
僕は、そんなお客さん達に苦笑を返しながら、店に復帰出来たんだなって気持ちを噛みしめていた次第です。
◇◇
滞りなく初日の営業を終えると、いつものようにパラナミオが元気な様子で学校から帰ってきました。
パラナミオは、
「パパ、大丈夫ですか?」
ただいまの挨拶もそこそこに、僕に抱きつきながら聞いて来ました。
僕は、そんなパラナミオの頭を優しくなでながら、
「ありがとうパラナミオ、みんなのおかげでもう大丈夫だよ」
そう言い、笑顔を返していきました。
そんな僕の笑顔をうけて、パラナミオもその顔に嬉しそうな笑顔を浮かべていった次第です。
そんな会話を交わしていると、店に辺境駐屯地隊長のゴルアがやってきました。
「店長殿、どうやら元気になられたようですね」
「あぁ、おかげさまで」
僕の言葉を聞いて、ゴルアもその顔に笑顔を浮かべていました。
すると、ゴルアは腰の鞄から何やら1枚の紙を取り出してきました。
「ついでと言っては恐縮ですが、これが王都より届きましたのでお渡しいたしますね」
そう言いながらゴルアが僕に手渡してくれた紙には、
『魔道船の残骸一式の払い下げについて』
と表題されていました。
で、その内容ですが、以前僕達が申請したとおり、
『魔道船の残骸の所有権を渡すので好きにしてください』
といったものになっていました。
内諾はすでに受けていたんですけど、この書類が届いたことで僕達コンビニおもてなしは、魔道船を正式に所有出来ることになったわけです。
これで、後は各都市に設置工事中の魔道船乗降タワーが出来れば、すぐにでも魔道船を運行できるようになるわけです。
この話自体はうれしい話なんですけど……残念ながら、メイデンに変わる魔道船の操舵手を見つけることは、まだ出来ていないわけでして……
そんな僕の心の内をまるで読んだかのように、ゴルアは満面の笑顔を浮かべていました。
……そうだよな、僕が新しい操舵手を見つけてしまったら、ゴルアはメイデンを引き取って新たにメイデンが社会貢献活動を出来る場所を探さなきゃならないわけだし……
そんな、いい笑顔のゴルアを前にして、僕は思わずため息を漏らしていったわけでして……