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コンビニおもてなしと定期魔道船 その2

 ほどなくして、僕の元に各地で建設中だった魔道船乗降タワーが完成したとの連絡が届きました。
 ブラコンベからは、2号店店長のシャルンエッセンスを通して、ララコンベからは工事に出向いていたパラランサが、ルアと一緒に報告に来てくれました。
 これで、当初予定していた三都市間を魔道船で定期的に周回することが出来ることになったわけです。

 何度か試運転は行っていますが、実際に魔道船乗降タワーに接岸・離岸をしたことはまだ一度もありません。
 何しろガタコンベは湖が発着場ですからね。
 と、言うわけでこの日のコンビニおもてなしの営業が終了してから急遽試運転を行うことにしました。
 今回は、本番を想定してブラコンベとララコンベの魔道船乗降タワーに実際に接岸・離岸しそれにかかる時間なども計測し、より正確な魔道船の運行計画をたてようと思っているわけです。
 まぁ、とは言いましても、秒単位とか分単位までビシッと決めてしまおうとは思っていません。
 何しろこのあたりでは初めて運行される定期魔道船ですからね、乗船したお客さんも物珍しくてなかなか降りてくれないってケースもあるでしょうし、そういう不測の事態もしっかり考慮にいれた上で、相当余裕のある運行計画をたてていますけど、まぁ、何ごともなく運行出来た場合のきちんとした時間も参考に知っておいた方がいいかなと思った次第です。

 操舵手はメイデンが務めます……非常に不本意ながら……
「いやぁ、店長殿。この度は本当にありがとうございます」
 メイデンの経過観察にかこつけて試運転に便乗しにやってきたゴルアとメルアの辺境駐屯地コンビは、揃いも揃って満面の笑顔を浮かべています、こんちくしょう!
 結局、ゴルアの思惑通りメイデンに課せられている社会貢献活動をこの魔道船運行業務に従事させることでこなさせることになっていますが……そのうちメイデン以上の適役を見つけてやるんだから、という気持ちを忘れていない僕なわけです、はい。
 船内案内係と、荷馬車乗降コンテナ、そして船内のコンビニおもてなし出張所は、勇者ライアナが自らの体を分身魔法で3分割して対応してくれます。
 で、その荷馬車の乗降のお試しのために、エレエが商店街組合の荷馬車を5台手配してくれました。
「エレエすまないな、無理言っちゃって」
「いえいえ、何をおっしゃいますですです。この魔道船が無事就航出来た暁には、ブラコンベを中心にした辺境都市連合間の人の流れ、物の流れが劇的に改善するのですです。それは各都市の商店街組合にしても非常に嬉しいことですです。ご協力は当然ですです」
 エレエはそう言ってニッコリ笑ってくれました。
 荷馬車はエレエの同僚の蟻人達が操馬してくれたのですが、皆、操馬になれているらしく、勇者ライアナ分身その1が
「はい、じゃあこのコンテナのこっちから順番に並んでとめてくださいね」
 そう指示を出しただけで、きっちりその場所にとめていたんです。
 で、どの馬車にも馬がくっついているわけです。
 その馬達が、魔道船に乗せられてどんな動きをするかなどのことも今回少し知っておきたいなと思っている次第です。
 勇者ライアナの指示で魔道船の下部に接続されている荷馬車用のコンテナですが、その中に馬車と一緒にのっている馬は、今のところ特に問題はありません。

 で、荷馬車の操舵を終えた蟻人達は、すぐさま客席へ移動していくとまずコンビニおもてなし出張所へ並んでいきました。
「ほうほう、こんな感じで売るのですね」
「ふむふむ、飲み物はパラナミオサイダーを中心に販売して、スアビールやタクラ酒は1人1本までに制限するのですね」
「お弁当は、ここで直に販売しつつも、船外への持ち出しも許可ですかぁ」
 と、まぁ、その営業方法を勇者ライアナ分身その3に根掘り葉掘り興味深そうに聞いていた次第なんです。
 このエレエ達以外にも、今回の試乗には、ルアとオデン六世並びにその娘のビニーちゃん、パラランサとヤルメキス夫妻とそのお婆さんのオルモーリのおばちゃま、4号店のクマンコさんとそのお子さん達、それに我が家の家族達が乗り込んでいます。
「パパ、魔道船は何回のっても楽しいですね!」
 パラナミオがそう言いながら僕の右腕に抱きついて来ました。
 すると、そんなパラナミオと張り合うかのようにリョータが僕の左腕に抱きついて、
「パパ!僕も楽しいです!パパと一緒だからとっても楽しいです!」
 満面の笑顔でそう言いました。
 で、僕を挟んで左右から顔を見合わせたパラナミオとリョータなんですが、そのままにっこりと微笑み合いまして。
「パパとリョータと、それにみんなも一緒だからとっても楽しいですね!」
「はい!僕もパラナミオお姉ちゃんの言う通りだと思います!」
 そう、言葉を交わし合っていったわけです、はい。
 そんな2人に釣られるようにして、アルトもスアにフロント抱っこされたまま笑顔を浮かべています。
 ムツキだけは、いつものようにスアの背におんぶされたまま寝息をたてています。
 僕を看病するのにかなり無理をさせてしまいましたし、今はのんびり休ませてあげようと思っているわけです、はい。
 
 ほどなくして、
「では、魔道船発進いたします」
 客室案内係の勇者ライアナ分身その2の声とともに、魔道船が音も無く池から発進していきました。
 操舵室にいるメイデンと勇者ライアナは思念波による通信で常につながっていますので、
『発進準備出来ましたわ』
「了解、じゃあ客室のみんなにそう伝えるね」
 そんな思念波によるやりとりがあったのではないかと推測されるわけです、はい。

 先日、テトテ集落へ向かう際にも、こうして離陸していくのを体験しているパラナミオ達なんですけど、やはりこの体験は何度経験しても楽しいみたいで、窓辺から外を眺めていたパラナミオ達は
「すごい勢いで船が上昇してます!」
「ホントすごいですねパラナミオお姉ちゃん」
「はい! リョータ、お姉ちゃんもそう思います!」
 そんな会話を交わしながら、嬉しそうに外を見つめ続けていました。

 その後、上空高く、雲のすぐ下にまで上昇した魔道船は、すごい速さで進み始め、あっと言う間にブラコンベへと到着しました。
 このブラコンベの魔道船乗降タワーは、コンビニおもてなし2号店に併設する形で建築されています。
 で、その乗降タワーを操舵室で視認したらしいメイデンは、魔道船をすごい速さで下降させていき、一発で魔道船乗降タワーへ接岸させることに成功しました。
 ……悔しいですが、メイデンのこの手腕は認めざるを得ないでしょう。
 その後、乗降タワーを離岸した魔道船は再び上空高く舞い上がっていくと、またしてもあっと言う間に今度はララコンベへと到着しました。
 ララコンベの魔道船乗降タワーは、コンビニおもてなし4号店に併設されています。
 で、メイデンは今回もあっさりと魔道船をその乗降タワーに一発で接岸させていきました。
 ……本当に悔しいですが、メイデンの手腕をどうしても認めざるを得ない感じです。
 そんな僕の意思を悟ってか、ドヤ顔を浮かべているゴルアがすごく憎らしく見えるのですがこれは完全に八つ当たりですので、このことは忘れてください。

 その後2回通りブラコンベとララコンベを回っていき、接岸・離岸試験を行った僕達は、その後、ガタコンベの湖へと戻っていきました。
 結局、最後まで大きなトラブルは発生しませんでした。
 馬達もおとなしいことこの上なかったそうです。
 まぁ、何も起きなかった=予定通りだったわけです。
 後、何か問題が発生したらその都度対処していくことにして、いよいよこの週末から魔道船の定期便を運行することにしました。
 さてさて。どうなっていきますやら……

 ちなみに、この夜一緒にお風呂に入ったパラナミオとリョータの2人は、
「パパ、魔道船すごかったですね! パラナミオ感動しました」
「リョータもです!」
 そう言いながら、僕の背中を2人がかりで洗ってくれていました。
 なんと言いますか、2人とも
「パパ一緒にお風呂にはいりましょう!」
 って言ってくれますんでね、ホント父親冥利に尽きる次第です。
 僕は、子供達と一緒にお風呂に入れることを心の底から喜びながら、2人のお話を聞いていきました。

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