コンビニおもてなしと定期魔道船 その3
魔道船の試運転をした翌日なのですが、各地のコンビニおもてなしに問い合わせが殺到しました。
皆さん口々に
「昨日、魔道船が飛んでたよね?」
「いつから運行が始まるの?」
「乗船予約は出来るのか?」
とまぁ、そんな内容の問い合わせのお客様が一気に押し寄せて来た次第なんですよ。
何しろ、この魔道船は見事なまでにコンビニおもてなしカラーですからね。
もうすっかり、魔道船=コンビニおもてなしのイメージが皆さんの中に出来上がっているようでして、街の人々の中では
『コンビニおもてなし丸』
って名前が浸透しているみたいなんですよ。
もうちょっと洒落た名前を付けたいなと思っていた僕なんですけど、
「パラナミオはコンビニおもてなし丸、良いと思います! 格好いいです!」
「僕もパラナミオお姉ちゃんに賛成です!」
「あ~!」
と、パラナミオ・リョータ・アルトは、この名前がお気に入りのようです。
で、ムツキもスアの背で居眠りしながら、同意とばかりに右手をあげていました。
で、パラナミオによりますと、学校のお友達やそのご家族の皆さんも魔道船のことをすでにこの名前で呼んでいるんだとか。
……ま、まぁ、そこまで浸透しているのを無理して変更するのもあれですしね。
そんな感じのなし崩しで、魔道船の名前は『コンビニおもてなし丸』となりました。
週末の運行開始を3日後に控えたこの日から魔道船の運行チケットの予約分の販売が開始になりました。
販売場所は、コンビニおもてなし各支店に限定しています。
ただし、就航経路から外れている3号店だけは販売箇所から除外しています。
まぁ、この3号店のある場所って魔法使い達が集まって暮らしている集落の中ですからね。
飛行魔法を使用出来ない魔法使いの方の方が少ない訳ですし、そもそも魔法使いの皆さんの大半は家で研究に没頭している人達ばかりで、ほとんど遠出しませんしね。3号店だけで異常な数取扱している魔女魔法出版の本を求めて他の都市に住んでいる魔法使いが利用するかもしれませんが、店長のエレに聞いたところ、
「何人かそのようなお客様もおられますが、そのような方々は皆様自力でご来店くださっていますので、特に必要性を感じません」
って返事だったわけです、はい。
魔道船の運行チケットの予約分を販売する本店・2号店・4号店の前には開店前から長蛇の列が出来ていました。予期はしていましたが、まさかここまでとは……
で、チケットは1週間分販売したのですが、就航時間の早い便からどんどん売り切れていきまして、どの支店でも昼までに全チケットが完売してしまいました。
「ここまで人気だと、将来的には魔道船の数を増やしたいところだなぁ」
僕は思わずそんなことを言ったのですが、その言葉を聞いたスアはですね、
「……う~ん……かなり難しい、かも」
そう言いながら首をひねっていきました。
この魔道船は、かつて別の世界の人達が作成した代物なわけです。
そのため、製造方法がまったくわからなかったものですからスアも当初はお手上げだったのですが、その残骸……といいますか、その残骸を闇の嬌声の連中が荒く組み上げてなんとか飛べる状態にまで修復していた物を手に入れることが出来たわけなので、その残骸をスアが詳細に調査・研究・修復を重ねまして、こうして就航可能なまでに仕上げてくれたわけです、はい。
で、この魔道船を調べたスアによるとですね、
「……材料が……すぐには、無理」
とのことでした。
なんでも、船体を支えている竜骨や梁などがすべて本物の龍の骨で作られているんだそうです。
この世界にもかつては多くの龍がいたそうなのですが、伝承によると伝説の勇者が魔法界とこの世界をつないでいた門(ゲート)を破壊する際に、事前にみんな魔法界に帰って行ったそうなんですよ。
例外的に、サラマンダーのパラナミオや、リバティコンベに住んでるサラさんなんて存在もいますけど、これは超希少な例なわけです。
神界のドゴログマに生息している厄災の龍の骨が使えないか試したそうなんですが、厄災の龍の骨は太すぎて使用に適していないんだとか。
下手に削ると強度が下がってしまうので、できる限り一本物が好ましいそうなんですよね。
で、そんな条件を満たす龍の骨はなかなか見つからないわけでして、そのためスアは『すぐには、無理』って言ったわけです。
まぁ、実際のところ無理な物はしょうがありません。
それに、スアが『すぐには、無理』って言ってるってことはそのうちにはなんとかなるのかもしれませんしね。
その日を気長に待つことにして、僕は、まずはこのコンビニおもてなし丸の運行を頑張ろうと思ったわけです、はい。
◇◇◇
そうこうしているうちに、週末がやってきました。
本来でしたら、第一便就航前に挨拶のひとつでもすればいいのかもしれませんが、すでに何度も試験運航をしていたこともありますし、ま、そこまでする必要はないだろうと思いまして、セレモニーは一切行わないことにしています。
まぁ、でも、何もしないのもあれなので、僕は出発地点であるガタコンベの桟橋の脇に立ちまして、
「今日は乗船ありがとうございます」
って言いながら、みんなに頭を下げることにしました。
記念すべき第一便は、子供連れのご家族がすごく多い感じです。
皆さん、この日を待ちわびてくださっていたらしく、全員ワクワクした表情を浮かべながら僕に挨拶を返しつつ魔道船に向かっています。
ちなみにこのチケットには偽造対策としてスアによって識別魔法がかけらてています。
チケットは、桟橋や乗降タワーの入り口の横にそのチケットを挿入するスア製の魔法チケット受け取り機が設置されているのですが、その中にスアの識別魔法がかけられていないチケットが挿入されると、即座に警報がなる仕組みになっています。
で、そのことは事前に告知してもあります。
伝説の魔法使いであるスアによって偽造対策がされていると宣伝しておけば、このチケットを偽造しようとする悪人も出てこないだろうと考えたわけです、はい。
で、魔道船の三分の一ほどお客様が入ったところで、初日第一便のお客様が全員乗船終了となりました。
この後、ブラコンベ・ララコンベと回って行きながら、追加で乗降してもらいますので、ガタコンベだけで満員にはならないわけです、はい。
もっとも、今日のお客様の大半は記念乗船ってことで、ガタコンベからブラコンベ・ララコンベと周り、最後ガタコンベへ戻って来て下船する一周コースのお客様が大半です。
他の都市のお客様も、皆様そんな感じです。
で、各都市間は本来であれば10分もあればたどり着けてしまうんですけど、今回は皆さんに空の旅を楽しんでもらう意味をこめまして、わざとゆっくりと運航することにしてあります。
ですので、各都市間を30分で巡り、乗降のために10分停泊。それを繰り返していき、およそ2時間で一周する時間設定にしてあります。
朝の10時に出発するこの第一便が戻ってくる頃にはちょうどお昼なわけです。
なので、乗り込んでいった皆さんの大半が少し早めの昼食を食べながら空の旅を満喫しようと考えておられたらしく、魔道船内にあるコンビニおもてなし出張所は、出発前から押すな押すなの大盛況でした。
まぁ、この事態は想定出来ていましたので、お弁当はかなり多めに作っていたのですが、この様子だと一周目が戻ってくるまでに追加用のお弁当を作成しておいた方がよさそうです。
そんな事を考えている僕の前で、魔道船がゆっくりと池から上昇し始めました。
僕は、そんな魔道船に向かって手を振っていきました。
すると、中の客船の窓から僕の方を見ていたお客様達が笑顔で僕に手を振り返しているのが見えました。
ほどなくして、魔道船は空へ向かって上昇していき、あっという間に見えなくなってしまいました。
こうして、魔道船ことコンビニおもてなし丸がついに就航を開始しました。
とりあえず、チケット販売、船内販売ともに快調な滑り出しと言えるでしょう。
僕がそんなことを考えていると、そんな僕の横にスアが転移魔法で姿を現しました。
スアは、僕の足にぴとっと抱きつくと、
「……旦那様、なんか嬉しい、ね」
「あぁ、そうだね」
スアの言葉に、僕は笑顔で答えていきました。
で、スアは僕に向かって目を閉じました。
これは、キスのおねだりなんですけど……桟橋の向こうには、すでに2時間後の第二便に乗船するお客様の列が出来ていたんですよね。
でも、スアはそんなことお構いなしとばかりに目を閉じたままです。
僕は、苦笑しながらも、スアの唇に自分の唇を重ねていきました。
するとですね、どうもスアは僕達に隠蔽魔法をかけていたらしく、お客さん達はキスを交わしている僕達にまったく気がついていない様子でした。
ま、たまにはこんなのも良いか、と思いながら少し長めにキスを交わしていった僕です、はい。