第二十二話 呂布奉先、ローマを治める <序>
呂布は可比能から発せられた「鮮卑」という言葉がラクレスの怒気をすっと引かせていくのを感じた。
「知っておったのか…」
ラクレスが低く可比能に問い掛ける。
「あぁ…」
涙を目に溜めたまま可比能は起き上がり、ラクレスの正面まできて座った。
片頬は赤く腫れている。
場はしばらくの沈黙に包まれた。
「子の成長とは早いものだな、ラクレス。それとも…英血とはこういうものか」
沈黙は呂大夫によって破られた。
ラクレスは答えない。
「のぅ…ラクレス、行かせてやるわけにはいかんか」
呂布は大気の震えを通してはっきりとラクレスの動揺を感じた。
「しかし」
「死ぬのは心ということか」
「…」ラクレスは黙っている。
「いつかは乗り越えなければならぬもの。息子かわいさゆえ逃げ切れるわけではないぞ」
呂大夫は少し考え、言葉を繋げた。
「あと半年と言われた」