第二十話 呂布奉先、ローマを治める <序>
「その漢の乱れに鮮卑の介入する余地があるということですね」
「この村は漢領の北端、匈奴との国境に位置しておる。そして匈奴の北は全て鮮卑のものだ。もし漢の内乱に鮮卑が介入する気であれば、この村も戦火にさらされる。村の行く末を決める大事な内偵だ。布よ、お前にできるか」
呂大夫は一気にそう伝えると呂布の答えを待った。
すでに呂布は冷静さを取り戻し呂大夫の目をまっすぐに見返している。
難しい内偵である。
道程にある匈奴の領内も、今は漢に服属しているとはいえ安心ではあるまい。
鮮卑領内に入れたとしても困難は続く。
戦支度でもしていれば鮮卑が次に狙う地も容易にわかろう。
だが呂布が調べることは遠くない未来漢に何か異変が起こった時、鮮卑が軍事介入してくるかどうか、ということである。
それはつまり、檀石槐自身に聞くしかなかろう。
並の者ならば達成は必死の任務である。
だからこそ呂大夫はラクレスと呂布を選んだのだ。
その期待に応えぬわけにはいくまい。
しかし、それとは別に呂布には気になることがあった。
そのわずかな逡巡の間に髪を入れず奥の間から怒鳴り声が聞こえた。
「伯にぃにできねえことなんかねえよ!」