第十五話 呂布奉先、ローマを治める <序>
檀石槐。
一代で分裂していた鮮卑族を集束し、モンゴル平原をたいらげて檀石槐王朝を建てた男である。
永い間モンゴル平原を母地とし、漢帝国を震えあがらせてきた匈奴族でさえこの英雄の出現により南方へと押し込められている。
この時代、鮮卑はアジアでも最強の騎馬民族であった。
「ふむ」
息子の慧知に満足そうに呂大夫は頷いた。
そのままラクレスに向かって右手を差し伸べる。
ラクレスは懐中から取り出した真新しい巻紙を呂大夫に手渡した。
「これが何かわかるか」
紙を呂布に見えるよう床に広げながら呂大夫が言う。
「こ、これは…」
呂布はその紙を見て絶句した。
紙の内容を表現する言葉が見つからない。
世に生きる人々の大半がいまだ持ち得ない概念をその紙は持っていた。
「それが、世界よ」
呂大夫は諭すようにそう言った。