第三話 呂布奉先、ローマを治める <序>
その言葉には答えず伯は無言で剣を引き呼吸を整えた。
首筋には汗がうかび、顔は少し照れたように紅潮しラクレスを見ている。
正直ラクレスは驚いていた。
2ヶ月程前から伯の動きに無駄が消え、静から動への移行に鋭さが増した。
常人ならもはや束になってもかなうまい。
だがそれでも自分が打ち負かされるのは数年は先であろう。そう思っていた。
しかし少年の才能はどうやらラクレスが計れる器を超えていたようだ。
すでに剣身一体となりつつあり、底知れぬ武の才を放ちはじめている。
呂大夫との約束の時が来たようである。
少年は男になる時が来たのだ。
ラクレスは西日をまとった美しい少年を見ながらそう思った。