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不死性の崩壊

 ――城砦石壁内

「……まさかこんな所に隠し部屋があるなんてねぇ」

(ベティちゃん凄いね!)

 現在肉体の主導権はエリカにあり、二人が居るのはベティが不自然に何もない柱で囲まれた石壁の中である。ベティいわく、アルモが交戦中の今の内は余程大きな音を立てなければ、内部に隠れているであろうシェライラに気付かれず侵入できるだろうとの事。念のために静かに掘り進めていった結果、大きな空洞が見つけ、二人は螺旋階段状になった内部を探索中なのである。

「にしても暗いわね。シェライラが潜んでいるにしてもこんなにも真っ暗な中で1人って、平気なものかしら?」

(無理なんじゃない?)

 真っ暗な中、たまに聞こえる破壊音や振動、そして衝撃が襲ってくる中を、完全な暗闇で1人過ごすというのは人には堪えるはずだ。少なくとも二人はそう判断している。

「……少しまずいかもしれないわね。急いで探しましょう。明かりをつけるわ」

(バレちゃうよー?)

「シェライラって娘が私の想像通りだと困るのよ。………………居た」

(え? え? あの娘がそうなの??)

 困惑するエリエアルであったが、見つけたエリカも眉をひそめている。彼女らの視線の先にあったのは……。


 ………
 ……
 …


「まだ続けるつもりなの?」

「はぁっ、はぁっ」「ふーっ、ふーっ」「ぜぇっ、ぜぇっ」

「アーチボルド様、殿下、エリオット様……」

 エリエアルが抜けてからのディレク達は、決定打を全く通せずにいた。一応アルモも防御はしているものの、ディレク達を脅威に思っていないのか、時折生身の部分で受け止める余裕を見せていた。

「なーおいディレクよぉ。身体能力強化もギリギリ使ってても、全く刃が通る気配が無えんだが」

「奇遇だな。私もこれ以上やると血を噴きそうなレベルで底上げしている」

「ショックなのは私も一緒かなぁ……なんせ得意の魔法も通らないなんて事、ある?」

「4大家が光魔法以外にも得意分野があった事は驚きだけど、まぁ問題にならないレベルだったね。普通に戦っていたら、君達の一つの生物のような連携に対応できてなかっただろうけど、相性が悪かったね」

「君のその馬鹿げた防御力が全てだな……」

「という事で状況をひっくり返しに来ました」

「「「「「 !? 」」」」」

 突然のベティの登場に、その場の全員が目を白黒させる。

「え? え? ベティ、さん?」

「ええ、そうです。ベティです。あ、皇子、一時的に全権を預けます。私が使うような感覚で指揮できるので、活用下さい。あ、ミリーが細かい部分は補助してくれますし、アメリア様もサポートしてあげてくださいね」

「………………待て待て待て! 君は何者だ!?」

「通りすがりの総司令だった者です」

「……はぁ?」

「……エリザベス嬢!? 何で指揮官がこんな所に出てきている!?」

「ここが手詰まりだと思ったので」

「う、確かにこの状況は……いやだがしかし!」

「ああ、君がこの妙な連携の根源ってわけ? じゃあ君を倒せば僕らの勝利が目の前ってことだね?」

「私は風魔法が特に得意でして……擦り削れ『竜巻』」

 びゅるるうううぉぉおおおっっ!!

「うおわっっ!?」

 アルモが戦意をベティに向けると同時に、ベティは巨大で局地的な竜巻を発生させていた。

「なっ、なんっっ、ぐあああああ!?」

「これは……」「ええ?」「あいつだけ?」「凄い……」

 驚いた事にどうやってコントロールしているのか、ディレク達には一切影響を及ぼしてない。アルモはというと、身をかがませながら飛ばされないように踏ん張っていた。

「僕を飛ばそうとしたって無駄さ! 幾らでも替えを作れるからね!」

「彼の言う通りだよベティ嬢! 先程もエリエアルを道連れに……くっ!」

「………………私の目的は彼を吹き飛ばすことじゃありません。彼の不死性を演出している彼の予備、この天空闘技場の土を削り飛ばす事です」

「「「「 !? 」」」」

 言われてディレク達が竜巻をよく見てみると、アルモ動きこそ封じているものの、風の流れは薄く薄く、闘技場の土を巻き上げて吹き飛ばしていた。

「気づいて……っ!?」

「ずっと戦況は見てましたから。不自然な位に復活してましたよね、貴方。なもんで気付きました。そもそも不死だからといって、あんなにもすぐ身体を作り直せるわけがないんですよ。じゃあ何かって言うと、作り直せるって事はつまり作り物って事なんですよ。ただ、親和性が相当高いゴーレムなんでしょうね。ダメージは受けてたみたいです」

「くっ! ああもうっ!!」

 アルモが苦悶の表情を浮かべて何かすると、天空闘技場の床が1m程消失した。余りにも不意の事態にディレク達が慌てるが……。

「きゃああっ……ってあら?」

「これは……浮いてる?」

「おーぉ、すげえ、な?」

「エリザベス嬢……あれだけの魔法を操りながら、我々にも意識を割けているのか?」

 エリオットの言う様に、ベティが風魔法によって自身と彼らの落下を緩やかな物に変えていたのだった。

「さて。竜巻はもう良いかな?」

「………………やってくれる。ああ言う風に作り上げるには凄く魔力を消耗するっていうのに。でも先に言っておくよ。本体である僕は今まで以上に硬いってね」

「そうですか。まぁ問題ない無いですね。あ、一つだけ質問が」

「……何だい?」

「貴方の意識が無くなったら、この城砦は消失したりしますか?」

「……驚いた。勝つ気でいるのかい?」

「返答は?」

「……気を失った位じゃ、魔力の全てを生命維持に回す、なんて事になったりするわけじゃないよ。答えになったかな?」

「おけおけ。十分。じゃ、お休み」

「はぁ? 何言っ………………(ドサリ)」

「「「「え?」」」」

「どんな人でも空気が無ければ生きていけないんですよ」

 ベティが事も無げにそう言い放つのを、ディレク達は驚愕の表情で見つめるのだった。

「だから魔法は嫌いなんです。一瞬で終わるもの……。あ、殿下? 指揮の方はどうなりました?」


 ………
 ……
 …


 数瞬の後、気を取り直したディレクは丁度良い機会だからと、ベティから指揮をどの様に行っていたかを実践を交えて教わっていた。その時、

「はぁ、ふぅ、よいっしょぉっと。あら? おーいみんなー!」

「「「「エリエアルぅ!?」」」」

「あ、死んでない事言うの忘れてた」

 エリエアルの登場で驚き、ベティの言い忘れていた発言に驚き、エリエアルがシェライラを捕獲した事に驚きと、皇子達は何に驚いていいやらで混乱していた!

「ベティ? 流石にどうかと思うわ」

「てへぺろ?」

「それ、フローラの入れ知恵なの?」

「そんな感じ」

「掴み所がない娘ねぇ」

「な、なぁ、そのミイラみたいなのがシェライラ、なのか?」

「多分そうですわ。あ、丁度アルモも起きそうだから確認取りましょ?」

「(ビクッ)げえっふげふげふ……うぐぐ、ここは……っ!? 君達はっ!」

「はいはい、動けないでしょう? 無理しないの」

「ええっ!? 君……生きてたの?」

「その辺りのやりとりはもう終わったんでもう良いの。それより聞きたいのよ。この骨と皮だけになってる娘がシェライラであってる?」

「は? 何を言って……しぇらいらああああ!?」

 アルモは変わり果てたシェライラを見て、それでも本人と判断したようで、心配の余りか絶叫している。

「ん。確認は取れたわね」

「シェライラに何をしたぁ!?」

「んん? んー、もしかしなくても良い仲、だったりする?」

「だったら何だ!」

「おうっふ……危ねえ、噴く所だった。うん……うんうん、あり、ね。なるほどぉ、ってそうじゃなく……彼女がこうなったのは貴方のせいだわよ?」

「何言って……僕らの相性は最高だ!」

「ふぐむんっ! ……ぷふーぷふー、そうねそうだわね、それは認める。認めるけどぉ、この娘の能力って『供給』で間違いないわよね?」

「……そうだ。そんなに消耗する程の能力じゃない……はずだ」

「誰に言われたの?」

「それは……」

「もし私の思う通りなら、この娘が貴方の事を大事に思ってれば大事に思ってる程、無茶をするわよ。例え自分が死んでもね?」

「……嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ!! あの人達は命に危険は無いって!」

「レアムを無茶苦茶にした人達の言葉? かしら」

「………………」

「ま、どっちでも良いけど、面倒だからこう聞くわね。シェライラの身柄は拘束したわ。彼女が大事なら、大人しく投降してちょうだい」

「分かりました」

「もし私が信用できないなら、そうねぇ………………って早っ!? え? あっさり!?」

「シェライラが無事なら僕は何でも良い」

「はぶんっ!? ちょっと間に合わな……」

 少し滴り落ちた鼻血を気にしながらエリカが鼻頭を押さえる一方、その少し離れた後方より声が聞こえてきた。

「勝手に投降されては困るな」

「ザナキア様!?」

「「「「「「!?」」」」」」

 突然現れた不吉で圧倒的な力を纏う黒い男の登場に、帝国勢はまるで金縛りに遭ったかの様に固まるのだった。特にディレク達にとって、その気配は身に覚えのあるものだった……。

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