罠の先へ
城砦内に侵入した帝国軍は、壁の内側の様子に戸惑っていた。高い壁で囲まれた迷路のようになっていたのだ。
「何かフィールドアスレチックとかにある巨大迷路みたいだな」
「そこはほら、生け垣で作られた、とかにしましょうよ」
「ミエもエリさんも突っ込む所はそこじゃないと思うの」
珍しくまともな事を言う喪女さんだと思ったものの、絶対真っ先に思い浮かべてたはずだと思うと、人に言われて冷静になった口だろうか。
(言い当てんなし……)
「どうします?」
「……エリザベス嬢、どうしたら良い?」
『進むしか無いですねー。向こうさんの兵数がこちらより勝るとも思えませんし、帝国内で大量発生したネズミは駆除されたみたいですから増援も考えなくて良いですね』
「そうか……では進むぞ! 続け!」
………
……
…
「……飽きた」
「飽きたとか言わないの」
「でもジュリエッタ様、これは何と言うか……きついっす」
巨大迷路に挑んでからかれこれ3時間程さまよい続けたアシュカノン帝国軍御一行様でぇ〜ございまぁす。
(何を追加しようか……)
すみませんでした。退屈に支配されていた喪女さんの精神では、このアプローチは怒りを買うだけだったちくせう。この巨大迷路、入ってみたらみたで少々厄介な仕掛けがなされていた。というのは、上から見ればいいじゃないとばかりに人を高い位置にやろうとした所、オープンだった迷路の上方が蓋をされてしまったのだ。次に取った行動は、足の早いものに先行させて様子を探るというものだったが、人数が少なくなると落とし穴が開くようになっていた。通路いっぱいの落とし穴が量産されると身動き取れなくなるため、これも断念せざるを得なかった。なお一度開いた落とし穴も、大勢で近づけば蓋がされるのだった。
「敵は何がしたいのだ……」
『恐らくですが、部隊に強力な特殊効果を乗せることのできる将官を、兵から遠ざけたいんだと思います。疲れさせて油断の出た所を狙うのが定石。なので、急に落ちてくる檻等の罠に注意し……』
ガッシャアアアアンッッ!!
『……すみません。もう少し早く言うべきでした』
「~~~っ!! ……こちらこそ済まない。この様な詰まらぬ策に陥るとは……。例え罠すら無い何もない所を延々と警戒しながら歩かされ、肉体的にも精神的にも疲労が溜まって注意が散漫になっていたところであろうとも……っ!」
猛ってるわねぇ……どうどう。
(どうどう……って、私もお冠なんですが?)
何時もの事じゃ……?
『残念ですが、ある程度散らせていたはずの将官は全て檻の中です』
「……どうすれば良い?」
『普通に壊せばいいだけなのですが、かなり頑丈そうですね。どうやらその檻は一方向にだけ開くようになっていて、将官達だけを進ませたいようです』
「……どう思うサイモン。乗るべきか?」
「そもそも時間制限を申し渡してきたのはあちらです。どの道不利な事には変わりないかと」
「仕方あるまいな」
『という事で、皆様、罠に飛び込んでください』
「ぐぬぬ、なんて陰湿なやり口か……根性ねじ切れた奴の仕業に違いない」
「概ね同意ではあるな。この様にしたいのであれば最初から一対一の決闘でも申し込んでくればよかったのである」
「疲れさせる、っていうのも一つの目的だったんじゃないかな?」
「あら? この扉の直ぐ向こうに、狭い通路が御座いますわよ?」
「やってこいってこったろうな」
「行くしかありませんな」「(コクリ)」
「合流できるかは未知数だが、兵達と分断された以上は敵将を討つ、或いは身柄の確保を再優先とする! 各々、気をつけてことに当たれ!」
「「「「「おう!!」」」」」「「「「「はい!!」」」」」
………
……
…
「む、フローラか?」「ああ、良かった!」
「お祖父様! お父様! ディレク皇子とジュリエッタ様も一緒です!」
喪女さん達を最初に見つけたのは、フローラの祖父と父であった。
「皆無事な様で何より。これより先は我等が前に立ちます故、後方の警戒をしつつついて来て下され」
「分かった」
ディレクが頼りないわけではないが、やはり生粋の軍人が居るってのはでかいな。
(安心感がね)
「……すまんな、不甲斐無い指揮官ぶりで」
「ベティ嬢が反論を挟んでおらぬ以上、どちらが現場の指揮を執っていても同じでありましょうぞ」
「どの道この城砦を落とす以外の選択肢はありませんからな。我等二人で攻めていても、似た状況になっているでしょう」
「……しかしこの迷路に素直に飛び込んでいたか?」
「「………………」」
「過ぎたことを悔やんでも仕方ないわ。どの道、敵の思惑に乗らなければグレイスは助けられない」
「そうですよ皇子。それもこれも悪いのはあのアホ野郎だ!」
「誰がアホ野郎だ! この見た目だけの底辺女!」
「出たな! 赤いごk……って誰が底辺女だ!?」
「テメエこそ何を言いかけやがった!?」
げらげら、もっとやれ。
「ちっ! テメエら全員まとめて相手してやんよ。そこの将軍様とは一度やってみたかったんだよなぁ」
「勝手に話進めてんじゃないわよ! ど変態畜生が!」
「ちょっとフローラ、黙ってて?」
「何でですか!?」
「話ができないからよ。……将軍、最初の割り当ての話、覚えてますか?」
「もちろんですぞ、ジュリエッタ様。……もしや?」
「ええ、私の割り当てですわね。見た目を変えてますが、アレはロドミナです」
「なるほど。通りで立ち振る舞いが素人そのものな訳ですな」
「……え? え?」
「フローラ嬢、彼はヴェサリオに見えますが本人ではありません」
「サイモン様?」
「大方先程のやり取りで、グレイスの身柄に関して内輪揉めして動けなかったりするんでしょう。もしくは奥に押し込められているか、疑心暗鬼になってグレイスの側から離れないか……」
「……あーあ? 何でバレてやがんのかねぇ。立ち振る舞いが素人だぁ? これでも正規の訓練は受けてるっての」
観念したのか、ヴェサリオの姿がどろどろと溶ける様に消えていき、そこにはロドミナが姿を現したのだった。……何というか演出ちっく?
<うんうん、そー見えるー>
「ちっ! でぇ!? 公女殿下様があたしの相手してくれんのかぁ? 別に全員出来ても良いんだぜぇ!?」
「いいえ、私とこの子が相手をするわ。さぁ、出てきなさい」
ジュリエッタが手を広げて光魔法を発動すると、そこに現れたのは銀色に輝く白虎のガイアであった。
「たっ……!? おいおい、ペット同伴かぁ!? いい加減にしろよ? ここは遊技場じゃぁねえんだぞ!」
「時間が惜しいわ。皆は先に行って」
「話を勝手に進めんじゃ……」
「ぐるあぁあああお!」
「うおぅ!? ……なんだってんだ!」
「ジュリエッタ。私は納得等していない。それは覚えておいてくれ」
「大丈夫よ。この子は任せて」
「武運を」
「そちらも」
「うええ!? う~~~……気をつけてくださいね!」
(負けたら承知しませんからね! 乙女様!)
「ええ、勿論」
(『フローラも気をつけるのよ』)
(はいっ!)
えーっとえーと、ナビ、後で報告ヨロ。
<りょー>
「ちっ……行かせるわけ」
「モードFで行きます!」
「「「「おうっ!」」」」
「勇者フラーッシュ!!」
ビッカアァァァァァアアアアアッッ!
「ぐあぁっ!? め、目がぁっ!? ……くそう、なんて単純なっ!」
「でも効果的だわよね……」
とんでもない量の光の洪水が収まった頃、そこにはジュリエッタと光で目をやられたロドミナ、ついでに巻き添え喰ったガイアが悶絶していた。教えてなかったのかよ。
「あらガイア、御免なさいね?」
「な゛ぁあぁぁおぅぅ」
「そんな恨みがましい声出さないで」
いや恨みもしますって。不意打ちであれはきつい。ロドミナなんて、バ〇スごっこまでやらかしちゃったし。
<ノーコンチンカン、まだいるのぉ?>
いやもう行くけど、何だよその素敵変換はw
<うぇ~い、褒められたー>
「ちぃいっ! こいつら舐め腐りやがって!」
「場は整ったようだし、貴女は私と遊んでもらうわね」
「舐めるな! 腐れ貴族風情がっっ!」
………
……
…
その頃、別の一行の様子はというと……。
「……惜しいですわね」
「何が惜しいのです? アメリア様」
「ミランダさんがここに居れば、あの陣形が楽しめましたのにね」
「ああ、そう言う事か。……メイリア、君が真ん中に立ってみるか?」
「うぇえぇえ!?」
「ミエ、無茶ぶりは良くないわ?」
「そうですわね。メイリアの意向も汲みませんと……」
「……と言いつつ、二人ともメイリアを真ん中に据えて陣形を作ってるじゃないか」
「えええええ!?」
「あら……」「うふふ……」
「安心しろメイリア。大して意味のある行動ではないから」
「ははは、はいぃぃ……」
百合百合しかった。混ざりたい。
「他の連中と合流したい所だな」
「そうね……。特に貴女達はベルベッタと合流しておきたいわよね」
「ええ、そうで……」
「所がどっこぉい~。合流は出来ないのでしたぁ」
ねちゃぁ、っとした喋り方で現れたのはエロロネ……もとい、ハルロネであった。
「ハルロネ!?」
「こいつが?」
「わぁ、底意地悪そうな顔ですわねぇ」
「エリエアル様? そう言う発言はよろしくないですわよ?」
「はっはぁ、舐め腐ってるわねぇ……? てめえ等全員、私がぶち殺してやんよぉ!?」
黒ロネ降臨っっ!