先生は良いお歳頃
また別の組では……。
「やれやれ。面倒であるな」
「そう言わないでよ、くー兄様」
戦場に出ることは余り無いのか、クラインが愚痴をこぼす。それをエリオットがなだめるが……、
「お前はその呼び方を何時やめるつもりだ?」
「え? やめる気無いけど?」
「……良い歳した大人がその呼び方はどうなのだ?」
「問題ない問題ない。身内でしかそう呼ばないし、そんな事を気にする人とは仲良くならないよ?」
「私が気にしてるのだが?」
「くー兄様は別」
……クール系大人イケメンと、フワ甘系正統派王子キャラのキャッキャウフフなんて、腐女子な方々が目にすれば鼻血物ですな。……あ、シンシアが地味にダメージ喰らってる。鼻は死守するんだ! 言い訳効かないぞ!?
「お? おーい! やっと見つけた! そこに居るのは誰だー!?」
「ん? おーい! こちらはエリオットとクライン兄様、そしてシンシアだよぉー!」
「おお、エリオット様とクライン様か! シンシアも無事だな!」
「ああ、大丈夫ー!」
声を掛けてきたのはアーチボルドで、元ダメ侍女のベルことベルベッタを伴って、エリオット達と合流したのだった。
「やぁ、君達だけかい?」
「ああ、そうなんだよ。出来りゃあ鬼将軍達と合流したかったんだが、今の今まで誰とも合わずなんだよな。ベルにしても、メイリアに合流させてやりたかったんだが……」
「既に敵の胃の中、こちらの思い通りに事が進まぬのは当然なのである」
「さっきまで文句言ってたくせに……」
「面倒なのと思い通りにならないのとはまた別の話であろう?」
「またそうやって屁理屈を……シア姉、どうしたの?」
「こちらより後方600m程戻る位置にて、戦闘が開始されました」
「……詳しく分かるかい?」
「……メイリア嬢がいらっしゃるのが感じ取れます。魔眼持ちであるあの方の魔力は割と大きいので」
「では皆様、ここで失礼します」
「待つのである、ベルベッタ・サントラン。一人で行くのは感心しないのである」
「そうですね。感心しません、私の前を勝手に離脱するなど……」
「……誰かな? 君は」
「アルディモ・ルッケルスと申します。覚えて頂く必要はありません。皆様にはここで消えてもらいます」
「ああ、もう一人の天才魔法使いか」
「その不名誉な二つ名は返上しましたよ」
「君が返上したと思った所で、周りの評価は変わったりしないものだと思うんだよね」
「……(スッ)」
アルディモが手を上げると、何処からかゴーレムの兵士が雪崩れ込んできた!
「30……? 予定よりかなり少ないが、それでも君達を屠るのには足るだろう。さあ大人しく……」
ガラガラガラッッ
「……は?」
「私の生徒に面白いのが居てな。そやつの魔法は、何故か小さなゴーレムで構成されているのだよ。そのゴーレムを組み合わせて巨大化させ、別の何かを作り出す……そんな迂遠な魔法なのだが面白くてな、ついつい真似してみたくなったのである」
「……それはこの状況の答えですか? まるで答えになっていないですよ?」
「よくその土人形達を見てみるのである。コアの部分や、駆動系の重要なパーツが抜けているであろう? その部分に限定して、小さなゴーレムを作り、移動させてやったのである」
「……そのような芸当が」
「さて、本来アルディモ君とやらは、私とサイモンで当たる予定であったのだが、サイモンがここに居ない以上、私が一人で相手するしかなかろう」
「何言ってるんです? くー兄様を1人で戦わせるとお思いですか?」
「迷ってる時間がそんなに残ってるのであるか?」
「………………」
「シンシア、3人を連れてメイリア嬢の下へ。もしそこでメンバーが揃ったなら、当たる予定の者を残し先に行くのである」
「御意に」
「ちょ、シア姉!?」
「エリオット様よぉ、ここは言う通りにしようぜ? クライン様は魔法に置いて、多分誰にも負けねえから」
「(ピクッ)それは聞き捨てなりませんね……。その言い方ですとサイモン以上と?」
「上下じゃねえんだよ。クライン様は魔法戦において『負けない』んだよ」
「……意味は分かりませんが興味が湧きました。進むのであれば阻むまでですが、引き返すのであれば追いません。さあお行きなさい」
アーチボルド達は目配せするとシンシアを先頭に、最奥より遠ざかる未見の道を走っていった。
「……さて、クラインさんでしたか? 『負けない』の意味はよく分かりませんが、どうかサイモンとの再戦を前に、どうか私の糧となってくださいねぇ」
「ふむ。勉強熱心な子は嫌いではないのである」
「ふふ……この私を生徒扱いですか? 24にもなって子供扱いされるとは……っ!」
「ふむ。私の6割程しか生きていないのである。まだまだ子供であるよ」
「……は? 6割? ……失礼ながら貴公、お幾つなのですか?」
「40であるが?」
……おいマジか!? 資料にそんなこと書いてなかったぞ! ってか、兄夫婦に子供ができないから家を継がされようとしてるって、兄夫婦一体幾つよ!?
「嘘つけぇ! さっきのまだ幼さの残る青年が貴公を兄と呼んでいたではないか!」
「4大家の子供達は全て幼少の頃より面倒を見てきているのである。まぁ見た目がこんなであるからな、何時までも彼等に可愛らしい呼び方をされてしまうのが難ではあるが……」
「……貴公は当主ではないのか?」
「私は当代当主の弟である。兄夫婦は諦めてしまっているが、今でも仲睦まじくてな……。なんとか当主に据えられるのを回避したいのである」
「その容貌なら、身分がはっきりすればお相手は掃いて捨てるほど寄ってくるでしょうに。早く若い嫁でも貰って兄夫婦を開放してあげる事こそが、人の道というものでは……?」
クラインはツイッ……と視線を逸らした。無理を言っている自覚はあるらしい。
「いや、つまらない事を言いましたね。ここで散る貴方がそんな事を気にする必要なんてありません」
「ふむ……浅慮であるな。もっと良く考えねば道を外してしまうぞ?」
「私は既に道を選んだ! 後戻りする気はない! できもしない!」
「ふぅ……それを浅慮と言ったのである」
………
……
…
「おい! この土塊人形、幾ら潰しても切りがないぞ!? 後、地味に強え!」
「すぐさま決定打になり得る火力までは無いにしても、ああもう! 面倒ねぇ……」
「でもこのままですと、いずれこちらの疲れが勝ってしまいますわ」
「えいっ! えぃっっ!」
「あー! もう! しぶといわねぇ! ってか、何でこんだけしかよこさないのよぉ!?」
ハルロネと交戦中のミエ・エリ・アメリア・メイリアの4人は、30体程の土ゴーレムに手こずっていた。というのも、4人がどれだけゴーレムを壊しても、ハルロネの能力だからかすぐ元通りに直ってしまうのだ。ハルロネにしても、ゴーレムはもっと来るはずだったのか、苛立っているように見える。
「アメリアー!」
「アーチボルド様!?」
「ああ!? ガキが色気付いた声出してんじゃねえぞ!? おいアルモぉ! 向こうの増援さんだ! こっちも追加よこせよぉ!」
黒ロネ化して吠えるハルロネの催促が聞き届けられたのか、何処からかゴーレムが追加されてきた。
「それでも50かよ! 当初の半分じゃねえか! ……まぁ良いわぁ、足止め位はできるだろうしぃ?」
「エリエアル! 先端に錨の付いた長い鎖を柄にくっつけた、返しのある頑丈な槍を生成しろ!」
「アーチボルド様、了解です!」
武具の生成という特殊な光魔法を扱えるエリエアルに、アーチボルドから武具の注文が発せられる。それを一瞬で生成したエリエアルは長い鎖を槍に巻きつけ、アーチボルドに投げて寄越した。
「はぁ? そんな変な物のが何の役に立つって言うのぉ?」
「ここで最低限の加勢をしたら引き返す予定なんでな!」
「……だぁってさぁ! アルモ! 分かってんよねぇ!?」
ハルロネがそう吠えると、アーチボルドの後方の道が鉄格子で塞がれた!
「げっ!?」
「大丈夫です。別の道から行けます」
「はぁ? なにそれなんで分かんのよ? ……だから個別に転送しろっつったのに」
「とりあえず行きがけの駄賃だ! オラオラオラオラオラオラァッ!」
アーチボルドはゴーレムをすれ違いざまに串刺しにすると、次々ゴーレムを鎖に縫い止めていった!
「……はぁっ!? なにそれ!」
「っとと、これが限界か! 30は縫い止めたか?」
力任せに引っ張れる限界まで縫い止めたアーチボルドは、余った鎖でゴーレムを縛り上げると強引に引きずっていく!
「こいつらは連れて行くから対ハルロネの3人はそいつを倒すないし無力化してこい! 他は俺達と一緒に先に行くぞ! ついてこい!」
「ちょ、この脳筋野郎! ゴーレムを置いて行きなさぁっ!?」
「あー君を脳筋呼ばわりって、貴女死にたいんですの?」
ハルロネが危険を察知してとっさに避けて見れば、空を切ったアメリアの手にはナイフが握られていて、表情は……ちょっと怖い。
「〜〜〜っ! ああもう! とっとと行っちゃえバーカ!」
「行くぞアメリア!」
「はいっアーチボルド様っ」
極寒の病んだアメリア……病みリアの表情から一転、花が舞い散りそうな位の乙女モードでアーチボルドに返して追いかけるアメリアであった。そして彼等が走り去った後には……
「まぁ良いわぁ。アメリアが残っただけ、ねぇ? ふひっ……」
「あれもまた随分と病んでるな」
「そうですね」
「ででで、でも! あいつを倒してバモン君を取り返します!」
「「その意気」」「だ」「です」
既に戦闘は始まっていたが、ここからが本番っ!