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ハイネリアの神髄

 注)ノーコン無し回


 ぞぶっ! どじゅっ! ぶちぶちっっ!

「おごぇっ!? ぶぎゅうっ! ぎっひぃぃいああんっ♪ 激しいぃん!」

 サブリナは、刺され、貫かれ、引き千切られながらも、次の瞬間にはケロリとして立ち向かってくる。

「おのれ面妖なっっ! 何故その傷で死なぬ! 倒れぬ! 血が出ぬっっ! ……ぬおっ!?」

 ハイネリアはサブリナから注意をもう一人の相手、アーチボルドへと強制的に切り替えさせられる。

「だからぁ、俺を無視すんなって!」

「ええい鬱陶しい! お主の力量は期待した遥か下! それがしを倒すには足らぬ!」

 ガンッ! ガァンッ! ザインッ!

「はっ! そりゃあ悪かったな! でもてめえ、さっきより動きってか装備の切れが悪くなってんぞ!?」

「ぐぬぅっ!?」

 アーチボルドの言う様にハイネリアの構える大ランスは、当初と比べかなり回転が悪くなっていた。

「だから好機ってな……!?」

 そう言って突っ込もうとするアーチボルドの前に、サブリナが身を滑り込ませて行く手を遮る。普通なら文句の一つでも口にする所だろうが、アーチボルドはサブリナの表情を見るや、素直にハイネリアから距離を取った。

「……ただのゲテモノかと思いきや中々に侮れぬ御仁よなぁ、お主」

「あらあん? 褒めてくれるならぁん☆ 熱っついヴェ~ゼの一つでもくれてもぉ♪ 良いのよぉん?」

「それは全力で遠慮させて頂こう」

「んもぅっ! つれないわねぇん☆ ……んでもぉ、なんとなぁく貴方の事分かって来ちゃったわん♪」

「奇遇でござるな。それがしもお主の体の秘密分かってきたところでござる」

「んまぁっ! お互いの体の秘密を分かり合うだなんて……す・て・きぃいんっ!」

「………………ウボェ」

「ウボェはこっちの台詞だおっさん。会話だけ聞いてると、そういう嗜好のカップルの会話にしか聞こえんのをどうしてくれる?」

「やだぁんっ! カップルだなんて……ポッ☆」

「やめて頂けぬか!? いちいち念を押さずともそう思って気分を害したところでござったよ!? まったく……。ところで、お主等はそれがしの特性を聞いてござるのであろう? 一騎打ち、であるか」

「ああ、そうだな」

「それは特性であって特技ではござらん」

「それも分かる。戦ってみた感じあんたの特技は雷って所か。あの異常な速度での移動も、体を雷に変えてるとかそんなのか?」

「ふむ、それは少々違うでござるな」

 ザシュゥッ!

「うっぐ!?」

 アーチボルドが気付くと、ハイネリアがサブリナに弾き飛ばされるシーンだったのだが、何故か自分がランスによる傷を受けているという、理解しがたい状況だった。

「な、何を……」

「ふぅ……やはりサブリナ殿には効かぬのか」

「そぉねぇん。雷による一時的な意識の剥奪、なんて怖い真似よくするわねぇん……」

「 !? 」

 電撃による意識の剥奪、それが瞬間移動の正体であった。例えば地を蹴って目にも留まらぬ高速で移動する、となれば空気抵抗が強く風も巻き起こるため、相手に気付かれないうちに背後を取る等と言う事はまず無理である。相手の意識を意図的に散逸させ、自分への認識を甘くする等の方法を取らない限りは『物理的』に不可能だろう。

「なるほど、やはり理解してござったか。そしてそれが効かぬ貴殿の体質、いや体はゴムか何かで御座るな? そうであればあの妙な感触も、体から血が出ない理由もわかろうというもの」

「さぁどうかしらねぇん?」

「それがしは故あって全力が使えない事が多くてな。故にそれに至る段階を開放はしたものの出し渋っておったが、そうも言っておれぬ。……お主等はここで仕留めさせて頂く」

「あらぁん? 出来るかしらぁん?」

「ふむ、答えては下さらぬか」

「ふぅ……よし、行けるぜ」

「む? 時間稼ぎもしてござったか。食えぬ御仁よな」

「いやぁん☆ むしろ、食・べ・てぇん?」

「………………アーチボルド殿、先程素直に飛び込んできておれば良かったと後悔することになるであろう」

「はぁはぁ☆ 放置プ・レ・イ♪」

「………………自信たっぷりだが負ける気はねえよ」

「一瞬でござる」

 そう言うとハイネリアは全身から魔力を迸らせ、ランスを頭上に掲げる。するとにわかに辺りが暗くなり、空で雷鳴が響き渡り始めた。

「………………おいおい? もしかして天候操作ができんのか?」

「そんな大仰な物ではござらんよ。ただし、雷だけは本物でござるがな」

 バッシャアアアアアンッッ!

「うおわっ!?」「いやぁんっ!?」

 ハイネリア目掛けて巨大な雷が落ちる! アーチボルドはもとより、流石のサブリナも思わず顔を背けて目をすがめる。

「お待たせもうしたな。これより全力を超えて、お二人を排除いたす」

 パリッ……

「ぶるうぅあああぁあああっ!?」

「……ハッ!? サブリナぁ!?」

「この期に及んでまだアーチボルド殿をお守り致すか。天晴なり」

 アーチボルドが意識を飛ばされた次の瞬間認識できたのは、穴どころか胴の側面を半分を失い吹っ飛んでいく、サブリナの姿だった。

「な、何が……?」

 チュイィィィィィン……

 アーチボルドがハイネリアを見やると、彼の掲げるランスが鈍く光っているのが見えた。いや、今まで以上に高速回転するランスが輝いて見える様になっていただけであった。

「次でお主も終わりでござる」

 パリッ……ギャリィィィンッッ!

「何っ!?」

 声の主はハイネリア、吹っ飛んで行くはアーチボルド。ハイネリアは意識を飛ばしたはずのアーチボルドが反応した事に驚いたのだった。

「がっはぁ! ……っぶねえ」

「お主……どうして」

「さぁな? 例え自分の状況を理解してても、手の内を明かせると思うか?」

「……っ!」

 パリッ……ギリギリギリギリッギャンッ!

「っ! またか!」

「どうわぁああぁぁっ!」

 余りの勢いで二度三度地を跳ねながらも、何とか体勢を立て直して着地するアーチボルド。

「二度も受けたならもうそれは偶然では無いな。お主がどのようなからくりでそれがしのランスを受けておるかは知らぬ。が、何も意識を飛ばすのがそれがしの神髄ではござらん」

「へぇ……? じゃあ小細工なしに本当に瞬間移動でもできるのか?」

 ドォンッ!

「ぬおっ!?」

 ガッギィィインッッ!

「うおわあぁぁあああ!?」

 先程の比ではなく、何度地を跳ねたか数えるのも嫌になった頃、木に体を受け止められる形でようやく静止するアーチボルド。そこにハイネリアはゆっくりと近寄っていく。

「残念ながらこれを瞬間移動と呼ぶのは、あまりにもおこがましいであろうなぁ。であるが、殆どの御仁はこれに反応できもうさん」

「……っ! ……っ!! ぐあぁはっ! げぇっほげほっ……っ! ……はぁはぁ、肺が潰れたかと思ったぜ」

「ふむ、お主も頑丈でござるなぁ。早く楽になりもうせば良かろうに」

「あー……生憎死んだら泣く奴が居るからな。死ねねえんだよ」

「……(ギリッ)」

「あ? 何だよ? 相手がいる奴が憎いとかそういう手合いじゃないだろ? あんた」

「違うなぁ。守るべき者が、己が死ねば泣く者が居る人間が戦場に立つべきではないと思ってるだけでござるよ」

「……経験論か?」

「一般論……だっ!」

 ドォンッ!!

「はぁうぼぉおぅぅっっ!?」

「んなっ!? お主!?」

 ハイネリアの直進上に現れたのは、半身を失ったはずのサブリナであった。そのままサブリナは体を膨れ上がらせ、文字通り全身でハイネリアを包み込む。

「うばばばばっ……いっじょに逝ぎまじょぉ?」

「はなっ、離さんか!?」

 飛び出した勢いを少々落したものの、未だ殺人的な速度でアーチボルドのもとへと突き進み、

「悪ぃなサブリナ。助かる」

「あべりあざばによろじぐねぇんっ」

「ぬおおおおおお!?」

 ドゴギャンッ!!

 かなり異質な音を響かせながら、アーチボルドの剣がサブリナとハイネリアを諸共に貫くのだった。

「がぶっ……じ、あ、ばっ、ぜぇ……ん」

「ごがっ、がががっ、ギギギギッ」

 次の瞬間カッ! と目を見開いたサブリナがアーチボルドを蹴り飛ばす! そして

 バリバリバリバリバリバリバリッッ!!

「さ、さぶ……」

 巨大な雷の柱が天を衝く光景を最後に、アーチボルドは意識を手放したのだった。

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