残念では無かった御仁
注)今回ノーコンが職務放棄したことにより不在です。理由は主にげても……おほん、サブリナを自称する男性によるものです。予めご了承下さいますよう、付してお願い申し上げます。
「ぐぶえぇぇぇぇええ……っでぇ、良い加減、離しなさいなぁ!」
腹部を盛大に突き刺されていたサブリナは、無理やり引っこ抜いてハイネリアの突進から身を躱す。
「ほぉ……イロモノかと思いきや、中々やるではないか」
「うふん……こちらもいい男ねぇん? しぃっっかりお相手してあげるわぁん?」
「(ブルッ)なにやら悪寒が走ったのは何故であろうな……?」
そう言ってハイネリアは巨大なランスを構え直す。対するサブリナは全身の筋肉を肥大させ、クラウチングスタートの構えを取る。
「我が名はハイネリア・ヒューイック。いざ尋常に勝負!」
「あらぁん? ご丁寧な名乗りをどぉもぉん☆ 私は愛の狩人サブリナよ♪ 家名は捨てたわん☆」
「あ、は? 愛の……狩人?」
「手始めに貴方をハンティングしてあげるわ、ぁんっ!」
「うひぃ!? 自分は男色の気はござらんよっっ!」
嬉々とした表情のサブリナに迫らられ、鬼気迫る表情でハイネリアは必至にランスを振るう! どうやらこの二人では実力はハイネリアが圧倒しているらしく、サブリナは指一本触れることさえできずに居た。
「ああんっ! もうぅっ! ちょっとで良いのにぃんっ!」
「良くはありませんな! 貴公! 本当に武人なのか!?」
「あ・い・の♪ 狩人って言ってるじゃなぁい!」
「ええい! 訳の分からん事を!」
それでも追いすがるサブリナに、必死に躱すハイネリア。かれこれコレを10分以上続けている。すると何かに気付いたのか、ハイネリアが急に動きを止めた。
「あらぁん? 私の愛をっ☆ 受け止めるっ♪ 覚悟が完了したのねぇんっ!」
「貴公、それがしを足止めして居るのか?」
「……なぁんのことぉん?」
「なるほど、思いの外時間を取られもうした。よって……今から本気で貴公を討たせてもらう」
「そぉん? 本気になればすぐにでも終わるかの様な言い分……」
「すぐに終わりでござるよ」
「 !? 」
ハイネリアの纏う空気が変わると、今まで捌くために使われていたランスが、的確にサブリナを襲い始める。
「あらっ! 情熱っ! 的ねぇっんぶっ!?」
「『廻天』」
ハイネリアは小さくそう呟くと、今しがた串刺しにしたサブリナをランスで貫いたまま高く掲げ、ランスに高速回転を加えるのだった。
チュイイイイインッッ!!
「ごっ! ぼっ! ぎゅぼっ!」
「苦しいのは一瞬、すぐに楽になるでござ……っ!?」
「っそおおおおおいっっ!」
突然の闖入者にサブリナを放り捨てて飛び退くハイネリア。仕留め損ねて舌打ちをする少年の髪は赤かった。
「ちっ、残念! 避けられちまった!」
「貴公、その見た目、出で立ち……アーチボルド・ザルツナー殿とお見受け致す」
「おう、その通りだ。あんたはコミカルが売りの武人っぽい何かな残念おじさんのハイネリア・ヒューイックで間違いないか?」
「それは自分ではござらんと声を大にして言いたいが! ……ハイネリア本人に間違いないでござる」
「そっかそっか。……なぁあんた? どうせ俺が天敵みたいに言われてめちゃめちゃ修行した口だろ?」
「否定はせぬが……なにゆえそのような事を聞く?」
「天敵がいると聞かされて放っておく様な奴とはやり合いたくないからさ。俺を倒すために努力してきてくれた……それだけで燃えるってもんだろ!」
「……聞きしに勝る好漢ぶりでござるな」
「ほんっと……そぅおよ、ねぇん」
「 !? お主、まだ生きておったか……仕留めきれなかった事を済まなく思う。今この少年とのケリをつけて、すぐ楽にしてやるでござるよ」
「へっ! 殺らせねえよ!」
「『廻天』」
「 !? 」
不穏な気配を察知したアーチボルドが後ろへと飛ぶ。次の瞬間、ハイネリアの繰るランスが縦横無尽に振るわれ、その軌道上にあった草でも土でも木でさえも、綺麗に『削り』取られていったのである。
「高速回転のヤスリみたいなランスだなぁ!」
「左様、これに触れれば如何な物とて無事ではすまん。そこの御仁が丈夫であったがため、徒に苦しみを長引かせてしまって申し訳なく……っ!?」
「し〜んぱぁ〜い御無用っ☆ よぉんっ♪」
「お主、どうやって……」
「ああんら? あたし、丈夫だからぁんっ!」
ミチミチミチ……
サブリナの筋肉が軋む音を立てる。
「おーい、サブリナよぉ? できるだけ手出し無用で頼むぜ? どこまでできるかやってみたいんだよ」
「分かってるわよぉん☆ 私もアーチ様の邪魔なんてぇ♪ しないわぁん?」
「……お、おう」
サブリナの媚売りにアーチボルドが数歩後退る。
「そちらの男色の御仁も然り……」
ハイネリアがボソリと呟く。対象の名には挙げたものの、サブリナが頬を染めているのはあえて見ないようにしている。
「我が天敵殿のもまた然り……」
アーチボルドも恐らく自分を差されたものと視線を向ける。
「足りぬ。圧倒的に足りぬ! ……されど我が命は、目標の確殺……故に、開放する」
ガガガンッ! バリバリバリッッ!!
その瞬間ハイネリアを中心として、のたうつ蛇の如く雷電が四方八方へと地を滑る。
「ぅあぶねっ!?」
「あっ……はははんはんはんははははんっ!」
「サブリナぁ!?」
アーチボルドは器用に避けたものの、サブリナは雷の蛇の一つに飲まれたのだった。
「おまっ! 避けなかったろ! 今!」
「うなななななななんなななっ!」
……恍惚の表情を浮かべて痺れる? うねる? サブリナを、大丈夫と判断したのかさっさと見捨てて距離を取るアーチボルド。
「げに理解に苦しむ御仁よな。こちらも本気を出す以上、お主らは仕留めさせてもらう……故に」
「 !? 」
「さらばでござる」
アーチボルドの反応できない速度でその背後に回りこむハイネリア。彼が背後に立ったハイネリアに気付いて振り向いた時にはもう手遅れ……
「まだまだよぼぉふっ!?」「うえ!? ちょがっ!」
と思いきや、突如間に入り込んだサブリナと一緒に吹き飛ばされていったのだった。
「……解せん。何故貴公は我が雷電の餌食となって動けるのだ? それに何度貴公の身体を突いても割いても感覚が、感触がおかしい。自分の中にある経験から乖離した感触である」
「うぼぼぼぉぉおんっ! イヤねぇ、突いても、だなんて(ポッ)」
「………………」
「アラヤダ、反応してくれなくなっちゃったわぁん?」
「誰だってあんたにそんな反応返されたら嫌だろう。何であんたはそんななんだ……」
「イヤンッ☆ アーチボルド様は真面目ねぇん♪ こんな私にちゃんと反応するだ、な・ん・て☆」
「………………」
「お主のことは良う分からんが、とりあえず殺してしまえば嫌な気持ちを味わうこともないであろう。早々にいねいっ!」
今度はサブリナに標的を替えたハイネリアがサブリナの背後に出現する。……が、サブリナの目は確実にハイネリアの姿を捉えていた!
「……!?」
「不思議そうな顔してるわ、ねぇんっ!」
バキィッ!
「あらやだ! 私ったらつい顔殴っちゃったわぁん! 中身はともかく、見てくれはイケメンだから気をつけないとぉんっ!」
「ぬぐぐ……自分を舐めるなぁ!」
ハイネリアが紫電を残して姿を消すと、サブリナの周りで時折火花が散り始める!
バチッ! バチッ! バチチッ!
サブリナ視線をキョロキョロと動かし、端から見ればじっくり目で負っているようにも見える。
「そこおんっ! ……あら?」
「なるほどな。お主の反応の正体見切ったわぁ!」
ザンッ!
「ああっ!? ふぅん☆」
「超反応! そう言えば聞こえは良いが、ヒットの瞬間に自分を捕まえんとしてるだけ! ならば切っ先で撫ぜて位置を誤認させ、改めて必殺の一撃を叩きこめば良いだけの事!」
「ああんっ! よくわかっ、そこぉ! ああん! これもちぎゃぁぅっ!?」
ザシュッ! ズグッ!
どんどん劣勢になっていくサブリナ。あちこち切り刻まれて穴も空き、何時死んでもおかしくないように見える。……が、またしてもハイネリアは足を止めた。
「どう……なっている? 貴公、血が、出ぬのか?」
「ぐうっふ……ふふ、なぁに? 血が出ないと不安なのぉ? ウブなのねぇん☆」
「ふざけるな! どういう体の構造をしている……っ!?」
ズバァッッ!
「は? あうっぐ……!」
「よそ見は駄目なんじゃないか? 別に一騎打ちしてたわけじゃねえだろ? 少なくとも俺は申し込まれてないなぁ。俺の方だってできるだけ邪魔しないでくれってサブリナに言ったっきりだしよ」
「お主っ!」
「心情的にはな? 一騎打ち、やりたくねえわけじゃねえんだ。でもなぁ、そもそも相手に歯牙にもかけない対応されてる上に、国の勝利と天秤に掛けるこっちゃでもねえだろ?」
「………………なるほど、確かに」
静かにそう言って、ハイネリアはまたしても紫電を残し別の場所に飛んだ。
「仕切り直し、でござる……っ!」