暑苦しい俺様
ねえ喪女さん、ちょっと聞いて?
(どこかのナス顔な妖精さんに問いかける歌のように聞かないで? んで何よ?)
何故あれがここに居るんだぜ?
(護衛なんだって言ってたけど?)
断って来なさい。
(拾ってきた動物を捨ててくるように言うんじゃないわよ。一応離れた所に居るでしょうが)
月までの距離を譲歩しよう。
(どんだけよ?)
歩数は分からん。1万歩とかのレベルでは無いのは確かだ。
(1億でも、多分兆でも効かねえよ)
なんだよあれ……なんでモヒカンが頂点で二股なん? 幸せなら毛を叩くの?
(よくそんなcm持ってきたなおい)
んで、何でこんな所に陣取ってんの?
(ガイアがね? ココら辺で敵襲があるかもって言うのよね)
……え? あのもふもふ様、そんな事感知できたりすんの?
(できるらしいわ。本人、ってか本獣は他に受けてるはずの襲撃地点に行っちゃったんだけどね。ベル乗せて)
ベル乗せて? ……ってか、なんでそこまでツーカーなん?
(ガイアの言いたそうな事をこちらで感じ取って確かめる感じ? コレで言いたい事あってるー? って)
……そっすか。ちょっと俺の理解の範囲外な喪女さんとの会話を終えると、ちょうどガイアの予感を裏付ける様に敵軍が現れたのだった。
「ああ? ド派手な合図で飛び出してきてみれば、なんだよおい! 俺様はついてるじゃねえか!」
そう大声でがなりながら出てきたヴェサリオは、無造作に伸ばした赤のざんばら髪で、長大な槍を構えたキツイ顔つきの美丈夫であった。
「イヤンッ! いっけめへぇんっっ!」
……聞こえない。俺は何も聞いてない。くねくねしてるのは音で動くおもちゃか何かだ。
(それはそれで嫌な表現ね……ファンキーなひまわりに謝ってもらいたいわ)
「あ゛あ゛? なんだぁ? あのバケモンは……。まぁ良い。てめえだろう! 今代の勇者ってのはよ!」
「何かの間違いです!」
「……は?」
「何かの間違いがあってそうなったかも知れませんが、私は違うと信じたい!」
「知るかボケェ! てめえは勇者と呼ばれてるかどうかだけ答えりゃ、それで良いんだよ!」
「認めたくないものだな! 勇者等と呼ばれる身の上は!」
「てめえの願望は聞いてねえ! 勇者かどうかそれだけ答えりゃいいっつってんだろ!」
「……真に遺憾ながらそういう風に言われております」
「だろうがよ! ……あ゛あ゛ぁ! 苛々する。この数瞬の遣り取りが無駄じゃねえか! ぶっ殺すぞ!」
「え? 今の態度と遣り取りでそこに辿り着くんですか? じゃあ元々は殺しに来たんじゃないんですね? 何しに来たんですか?」
「………………」
「………………」
「お前が何であれぶっ殺す。よし、それで行こう」
「おいこらぁ! 大して何も考えてねえじゃん! 考え放棄すんな!」
「ぃやかましい! 考えるなんざ、てめえを殺してからでも間に合うんだよ!」
「酷い! 横暴だ! ひとでなし! ろくでなし! 鬼! 鬼畜! 単細胞!」
「じゃっかましゃああ!! 全軍突撃ぃ!」
げらげら、もっとやれ。
(ネタ切れー)
「ってか、あんた! 何か兵の数多くない!?」
「るせぇ! ハイネリアの野郎の分も俺が率いてんだ! 文句は受け付けてねえよ!」
「うわずっる!」
「何が狡いってんだてめえ! 元々兵なんざ誰が率いても変わんねえだろうが!」
「……それもそうね?」
「あ゛あ゛!? てめえと喋ってっとなんか苛々するぜ!」
「なら……3人分の兵が出てきても文句言わないよね? 迎撃ぃ! 始めぇ!」
「 !? 」
フローラの合図と共に、大量の矢がヴェサリオの隊に降り注ぐ!
「んなっ! どういうっ……うぉっ!」
ヴェサリオの困惑も当然で、フローラが3人分の兵を率いてるにしても、矢の数が尋常ではなかった。それもそのはず、借り受けた2人分の部隊は全て弓兵であるからだ! これで数を減らしておいて対応しようと言う、むしろこっちの方が小狡い戦法であった。
(小狡い言うなし)
「ちっ! あーあ、兵がごっそり削られてるじゃねえか。しょうがねえ……『全軍回復!』」
「うえぇっ!? もう使うの!?」
「はっ! 俺の役目はてめえをぶっ殺す事! それ以外の事は後で考えりゃ良いんだよ! てめえを仕留めるまでの間、あいつらはそこまでもちゃあ良いんだよ!」
「あんた本当の意味で脳筋なのね!」
「黙れクソがぁ! ぶっ殺すぞ!」
「殺すのが目的って言ってたじゃん! 黙った所で変わんないじゃん!」
「ああもうとっととぶっ殺してそのうるさい口を閉じてやらァ!」
「そうはさせないわよぉん?」
ドンッ という音とともにSAN値を削る何かが飛んできた!
(こらこら)
ズンッ!
ヴェサリオは槍の柄でヘンタイの攻撃を防いだ!
「あっはぁあん♪ ス・テ・キ☆」
「……お呼びじゃねえんだよ、雑魚がぁ!」
ヴェサリオはバケモノを押し返すと、目にも止まらぬ速さで槍を繰り出した!
「うげうっ!?」
「サブッ!」
身体のあちこちに穴を開けながらも、ゲテモノはくるりと器用に空中で回転して着地する。
「だぁいじょうぶっ♪ あはぁあん☆ 熱い刺突だったわぁん♪」
「ちっ……無駄に丈夫だな」
「私が動ける間はフローラ様に近づかせないわよぉん?」
「……ほぉ? じゃあこっちも次の札を切っておくかな」
「まさか!?」
「札っつっても『兵器』の事じゃねえよ! なぁ!」
キュイイインッ
「 ? なぁに? この音ぉおおおおぶっっっ!?」
突然乱戦中の兵の中を突っ切って、高速回転する巨大なランスを構えた武人が突っ切ってくる! ハイネリアだ! 長い黒髪を後ろで束ねた無精髭の無骨な武人は、登場するやいなやゲキブツをランスに突き刺して捉え、戦場から遠のいていった!
「ちょ、サブぅ〜!?」
(っつか、あんたちょいちょいあいつの呼び方酷いわね!)
え? 今更?
「よそ見してんじゃねえぞこのアホ女ぁ!」
「にょわああああ!?」
突き出される槍を、不思議な踊りで躱していく喪女さん! 器用だな!
(ちょまっ、ふしぎっ、てなん、ぞこらっ、アブねっ!)
「ああもう鬱陶しいっ!」
キンッ!
漸く喪女さんが一突きを弾き返す! ……が、
「あれぇ!?」
「おいおいなんだお前! 俺達の事よく知ってるんじゃあ無かったのかぁ!? 俺の特性は無効化だろうがぁ! 身体強化なんざ発動しやしねえよ!」
「ぬあああ!? そうだったぁ!!」
「はっは! アホ女改め間抜け女だなぁ!」
「むきー! ってふぉっ! それどこじゃっ!? 無いわっ! ねぇっ!」
でもだぜ? 喪女さん。て事はあいつ、素のままの状態であの強さなんだろ? ……強くねえ?
(前情報とぉっ! 違うわはぁっ! ねぇっ! ってかぁっ!)
「しつっけぇ!」
「そりゃこっちのセリフだクネクネ女! 避けてねえでさっさとくたばれ!」
「あほっ! かぁっ! しんでっ! たまるっ! かぁっ!」
10点、10点、10点、10点、10点の出ました! 10点満点です!
(っせえ!)
しかしヴェサリオの優勢も、部隊人数では負けているからか少しずつ押されてきていて、ちょいちょい妨害の矢がヴェサリオへと飛んできている。そのお陰か少しずつ喪女さんへの負担が減ってきているようだ。
(良いぞっ! そのちょおっ!? しでがんばってぇっ! そろそろしんどっ! ひぃ……)
「(チンッ)ああうぜぇ! もいっちょ回復といっとくかぁ!」
「うええ!? まだ持ってんの!?」
「『全軍回復!』」
ここへ来て完全に回復するヴェサリオとハイネリアの部隊の復活に、流石に抗し切れなくなったなったフローラ預かりの3人分の部隊。
(どどどど、どうしよう!?)
「はっ! ようやく俺の仕事も終わりだなぁ!?」
「ぎゃあああ! 寄ってくんな! ヘンタイ!」
「誰がヘンタイだこらぁ! 多少見た目が良いからって調子こいてんじゃねえぞ!」
「え? そうかなぁ……えへへ」
「だぁっっ! うぜぇっ!」
喪女さん喪女さん、それ中身じゃなくて外身の話ー。
(うっせえ分かってんよこんちくしょうが!)
「死ねぇえやあぁあ!!」
「そうはさせないよ!」
ガインッッ!
「 !? 」
「とっとっとぉ……なんだぁ? てめぇはぁ?」
「遅くなったねフローラ嬢」
「グレイス様!」
オーマイグレイス!
(てめえのじゃねえ! 今は私んだ!)
いや、それはどうなのよ?
「俺の槍を弾くたぁやるじゃねえか?」
「ふっ……これでも武家の娘なんでね。グレイス・シャムリア、お相手仕る」
「はっ! 良いねぇ! お前、実に俺好みだ。這いつくばらせて泣かせてやんよ!」
「うわ、ド変態……」
「そこの残念なアホ娘は黙ってろぁ!」
「差別ハンターイ!」
シャッ! ギャインッ!
(うひゃあっ!?)
「ちっ、まずはてめえか」
「そうなるね」
他国の将にも残念認定された喪女さんは置いといて、
(こらぁ!?)
二人の対決やいかに!