環境
三人の子供は、菜園の話で会話が盛り上がっていた。
「セイジ、肥料とかで土壌の質を上げられないの?」
とミズナが尋ねた。
「でもここで肥料を買えない」
「肥料は自分で作れないの?」
とミズナ。すると平伏しているヒロが、砂埃を髪の毛からこぼしつつ次のように提案する。
「ウンコ、ウンコ使ったら?」
どこまでも適当な彼であった。
「え⁈ 汚いよ、ヒロ」
とミズナが気持ち悪く感じていた反面、セイジは賛成する。
「いや、それ案外いけるよ」
そこで彼女が本気でドン引きする。
「ええええぇぇぇぇええぇぇぇええぇええぇぇぇぇぇ⁇」
「マジで⁈」
と自分の気楽な考えが思わず認められて、素直に喜ぶヒロであった。
「うん、マジ。でもそれだけで量が足りない」
「ヒロの言うことを真に受けないで、セイジ」
「いやいや、あれは立派な肥料だよ。でも量が足りないな」
「・・・じゃ、じゃあ、何か他の物は使えないの? 例えば貝とか」
と少女が必死に代用できるものを考えていた。
「うーん、貝は難しい、しかも用途がちょっと違うよ。あっ! でも爺ちゃんは時々コンブを使ってたの思い出した!」
「昆布?」
よかった! 便を逃れた! と内心に喜んだミズナ。
「うん、それがいい」
「昆布をどうするの?」
「よく洗って乾燥して・・・う、ウンコと混ぜたらいいと思う」
と恥ずかしげに答える彼であった。
またウンコかああああああ! とミズナが内心に叫んでいた。
「キメェェェ、手で混ぜるのか、セイジ?」
「バカヒロはそれでいいかもしんないけど・・・」
そこで少女と肩を組む。
「僕らはポッドで見つけたスコップを使うね」
「僕ら⁈」
セイジが言い出した、ウンコ×コンブ混ぜ混ぜ担当とするその『僕ら』に自分が含まれているのかを恐れて、ミズナは吐き気がした。一方、ヒロは・・・
「テメェ! 俺にもスコップをよこせ!」
「いやいや、お前は手で混ぜるんだったろ?」
「おいおい」
とミズナが仲裁に入る。
気持ち悪さを乗り越えさえできたら、ついに希望が見えて、ワクワクしながらセイジに訊く。
「それで、何を育てよう?」
「うーん、ポッドの容器から見つけた種の内に一番簡単で早いのは、ネギとレタスかな」
「うわ~、ネギとレタスか~」
彼女は菜園の様子を想像し始めていた。
「そしてつるなしインゲンという豆ね、後は人参、という順で栽培すればいいんじゃないかな。ポイントは全部を採らない、そしたら野菜に花が咲いて来年分の種が貰える」
「野菜に花だと? 何言ってんだセイジ」
とヒロが疑心に言った。
「知らないの? 野菜に花が咲くんだよ。花がないと種は貰えないよ」
「え? マジ?」
「うん、マジマジ、凄い綺麗なんだよ」
「残りは全部採るんだよね? 花を咲かせるのは一部だけでしょ?」
「あ、もちろんだよ。そのまま放置するのはほんの一部だけ。種が十分貰えるし」
「なるほど」
賢い男の子の説明に納得しつつ、次は大きな問題が彼女に見えてくる。
「でも、充分な量を収穫したとしても、食料の保存はどうするの?」
という点について、なんと、田舎の知恵袋を活躍して彼はこう答える。
「全然問題ないよーぉ!」
「また爺ちゃんの教わりか」
とヒロが。
「ここなら打って付けの方法があるよ!」
「打って付けの方法?」
「・・・採れた野菜を砂に埋めるんだよ!」
「砂に? 埋める?」
「うん、うん! 何ヶ月も保存できるよ! いや、人参は半年もこれで保存できるんだぁ!」
「えええぇぇ!」
「冷蔵庫は要らないよ!」
と彼は自信たっぷりの顔を見せていた。
「色々考えたね、セイジ。田舎の知恵は侮れないね。そしたら、いつ収穫できるの?」
「それは微妙かな。普段じゃネギは、一ヶ月もかからない、レタスは一ヶ月半位、インゲンは二ヶ月。後は、人参は二三ヶ月かな」
「酸素が多いと何か違ってくるかな?」
「分かんない」
と、彼女の難しい質問に対して、田舎坊主は肩を竦めた。
「そっか。それまでに非常食が持たないとね」
とミズナは次の問題を予想した。一方、セイジが彼女に訊く。
「そうだね、どれくらい残ってるの?」
「ポッドは二週間分の非常食を持ってる」
「二週間⁈」
とセイジが露骨に驚く。
「それじゃ収穫をする前に俺たちは死んでんじゃねぇ?」
とヒロが軽く何気なく投げ掛けるのだが、それを本気にしてセイジの気が弱くなる。
「どうしようミズナ!」
「落ち着け、皆」
所詮子供ね。と少女が内心に思った。
「よーく考えてみて。その『二週間』というのは、子供が食べる分の二週間か? それとも、大人が食べる分の二週間か?」
「え、あ、大人かな」
とセイジが。
「私たちは大人か? 違うでしょ、子供でしょ! 大人の二週間分の非常食は子供の四週間、つまり一ヶ月分だよ!」
『脳』が大人のマリでありながら、『体』が子供のミズナである為、自ら自分を子供呼ばわりにする日が来るとは、思いも寄らず彼女は不思議な気分であった。
「おおおお、頭いいね、ミズナ」
とヒロが素直に感心した。
「食事に少し昆布を混ぜたら更に、その一ヶ月は伸ばせるのかもよ?」
「なるほど! ミズナすげぇ! 早速やろうぜ!」
とヒロがついにやる気になっていた。いや、彼がやる気満々になると、誰も止められない。それを見込んで少女は事を推進する・・・
「よし! セイジ、あんたが農業の経験者だから、あんたが皆に指示して」
「え、あ、僕が?」
「あんたしかいないでしょ⁈ ここで生き延びるんだ! 折角宇宙を旅出して、幾多の困難を乗り越えてここまで来たんだから、ここで死んでたまるか! ほら、さっさと指示を出せ!」
「あ、はい!」
あぁ、セイジが可愛くてチョッピリ格好いいけど、どうもヘタレね~。まぁ、人には向きと不向きはあるんだよね。小娘の身になった私が言うのも、あれなんだけど・・・