問題
「どうしよううううぅぅぅぅ~」
と、男子児童らが極まりない絶望感を味わっていた。二人を容赦なく現実に直面させた気丈な少女が、今度は自分なりに彼らを元気付けようとする。何しろ、一生叶わない願いを抱いても前へ進めない。
そうだ。叶わない願いは所詮毒だ。可能と不可能をハッキリ見極めるべきだ。
「泣かないで! 今、私たちが抱えてる一番の問題は何だと思う?」
「・・・」
泣き止む彼らは鼻水をズルズル垂らしながら答えようとする。
「救助が来ないが一番の問題」
とヒロが期待外れの救出の件を引きずっていた。
「ヒロは黙ってて」
とまた容赦なく、少女は彼の言い分を
「飲み水、かな?」
「いや、ポッドのろ過器で海水が飲めるようになってる」
すると・・・
「食べ物なんじゃない?」
先程の一蹴を気にしないでヒロが言ってみた。彼からまともな答えがくるとは・・・
「お、驚いた! それだ、ヒロ、私たちの一番の課題は食べ物調達だ」
「当たった? 俺、当たった?」
「ええ、ええ、当たったよ」
「よっしゃあぁ~!」
のんきに喜ぶ一方で、彼女は真面目に問題に取り掛かろうとする。
「セイジ、さっきの案、菜園とかいう、それを説明してくれる?」
「え? う、うん」
彼は少し
「ほらヒロ、あんたも聞け」
「はーい」
するとセイジが話し始めるのだが・・・
「昔ね・・・」
「おいおい、昔話かよー」
と、早速ヒロに割り込まれる。一方、礼儀知らずに対して彼女が男の後頭部を叩く。
「うるさい」
「痛ぇじゃねぇか!」
と彼が振り返ると、少女は涼しい顔をしながら、セイジに向かって話を伺う。
「で? 昔って?」
「うん・・・昔、爺ちゃんと二人で家庭菜園をやってた」
「あぁ、あの漁師だったお爺さんね」
「え⁇ 爺ちゃんが漁師だったなんて何で知ってるの? 誰にも言ってないのに」
「いやぁー」
いや、AI毬に言ったじゃん。とか言えないよね。
「あ、いや、それ・・・マリから聞いた」
「そっかぁ、確かにマリちゃんに言ったなー。はぁー、マリちゃんはどうなったのかな」
そこでヒロが少し勘繰る。
「ねぇミズナ、
「え? いや、全然、何も思い出せないけど」
「っていうかさー、雰囲気が変だぜ? まるで別人だ!」
「な、何のこと?」
と彼女は少し動揺した。するとセイジが少女を守りに出る。
「何だ先から、しつこいぞヒロ。そういう手術だってマリちゃんから聞いただろ?」
「あーあ、テメェは白馬の王子かよ。っち! 面倒臭ぇ」
一方、娘がホッとする。
危なかったぁ! もう二度とボロを出さないようにっ! 私は何も知らない記憶喪失の姫様だからね。そこで彼女は自分からの発想で吐き気がしてしまう。
「オエー」
「ぇぇええ⁇ 大丈夫ミズナちゃん?」
「ううん、何でもない! 平気、平気! 兎に角・・・」
と首を激しく横に振りながら話を逸らす。
「それよりも、食料の問題に戻ろう」
彼女が立ち直ろうとする。
「お爺さんと家庭菜園をやってたと言ったよね?」
「うん」
「それで野菜はどれくらい育てるの?」
「小さい菜園でも、上手く行けば凄い量の野菜を育てるよ」
「じゃあ、この島では?」
とミズナが島の狭い面積を検討に入れて欲しかった。
「さっき調べたんだけど、確かにこの島は小さい。でも・・・」
「でも?」
「うん、菜園を作るには十分広いと思うよ」
「よかった!」
まるで照らされ希望の光で、ミズナは喜んだ。
「けどね、爺ちゃんがよく『
「どういうこと?」
「だからさ、土の質が悪いと、野菜も小さくなって、ろくに育たない」
一喜一憂する彼女は急いで土の一握りを、彼に見せて確かめさせる。
「じゃあ、この島の土壌は? ほら、この土では?」
「砂が多い。確か爺ちゃんがそれを
焦燥感でミズナの掌が揺れて土が少し零れ落ちながら、更に彼を
「いいの? 悪いの? どっち⁈」
「・・・はっきり言って、悪い」
そこで会話の第三者であるヒロが、別の話で割り込む。
「あーあ。こんなミズナは粗いなぁー。前はもっと女の子らしかったなぁー」
よりにもよってヒロが落胆していた理由は、彼女の女性らしさの欠乏であった。だが少女が屈せず再び彼の頭を、今度は男尊女卑思考まで叩き直せる位の勢いで、もっと強く殴る。
「うるさい!」
「いっ痛えぇ・・・ほらさ! 粗いぜ、このミズナ・バージョン!」
すると彼女は溜め息をつく。
「ふうーぅ」
「前はもっと可愛かったぜ!」
その時・・・娘はやむなく、次のように反応する・・・
「何のことかしらああ~ぁ? ミズナはみいぃぃぃーんなのミズナ、ニャン~!」
唐突に『にゃんこポーズ』を披露しながら、少女は地球で拾った典型的な萌え知識を見せる。
「ほらヒロ、遠慮しないでええ~ぇ!」
最後に両手を広げ、満面な笑顔を浮かべて・・・
「お姉ちゃんの胸に飛び込んでいいのよおおおお~ぉ!」
彼女は一体・・・何をしている。
など内心に思って、他の二人は彼女の正気を疑い始めた。少女は患者衣のまま見苦しい様子を見せ続けていた。
「愛の注射かああ~ぁ? 愛の注射が欲しいのニャ~ァ?」
「⁇」
もう完全に言葉を失っていた。更に恥ずかしさゆえ、彼らの目は泳いでそのやり場に困っていながら、隠れる場所さえキョロキョロ探していた。
しかし少女は全く恥じなかった。なぜなら彼女は大逆転を
「とか言われたら嬉しいのかぁ‼ はああぁ⁈ このぶりっ子好き男めええぇぇ‼」
男を蹴れば蹴るほど、ミズナは快感すら覚えてしまった。
「何が粗い‼ 何が可愛い‼ 何が女性らしい‼ 女の身になってよね⁈ 疲れるんだよね、そういうの! この、この、このっ‼」
まるで全ての女を敵に回したかのような雰囲気に屈伏して、ヒロは降伏しながらこのように無様に慈悲を求める。
「ごめんなさい! ごめんなさい! 分かったから、許してミズナ!」
「許してぇ?」
「いや、許してくださいぃー‼」
と、金森ヒロが初めて敬語を使った。
「お座りっ!」
するとペットの犬のように命令されても、手懐けられた彼が素直に従う。
「よし。じゃあ、本題に戻って・・・何だっけ?」