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激辛塩盛

 フローラが倒れたマル君に付き添って食堂を離れた時の話である。ちなみに男女に分かれております。っつーか、パーティの主役が離席するってどうよ?

「やれやれ、騒がしかったねぇ」

「そうですね」

「やはりクロード男爵の圧は凄かったねぇ」

「体の芯まで凍てつく思いでした」

「彼の発言にもびっくりだったよね」

「良く臆面もなくあのようなことが言えると、少し感心しました。……思い違いではありましたが」

「ホッとした?」

「……ご冗談を」

「うっそだぁ。目を見開いて顔が強張っていたよ?」

「……ご自身も少なからずショックを受けていたように見受けますが?」

「……何でそう思った?」

「何時もであれば、あの類の話なら、楽しげに飛びついていたでしょう?」

「……お互い良かった、と見るべき? それともどの道相手にされていないと嘆くべき?」

「超えるべき壁も高そうでしたしね」

 男たちの挽歌。アウトオブ眼中って事で、心情的に。

「まぁ? バモン君はキープがあるから良いかも知れないけどさ」

「……それはどういう?」

「そんなちょっとの挑発で怒る位ならちゃんとケジメつけなよ? あの子も可哀想だよ?」

「……分かっては」

「いないよ。絶対に。手を繋いだ相手がいつも自分を思ってくれるなんて幻想捨てちゃいなよ。ちゃんと言葉にして、気持ちをぶつけ合わないと」

「……ですが」

「責任を感じてるんならそれこそ貰ってやる位のこと言えば良いんだよ。その上で他に好きなのが居るけど許されるかどうか聞けば良いじゃない。男爵でも妾の一人や二人、抱えてる奴もいるんだし。幸い彼女は兄弟も居るのだろう? なら血族に強い繋がりのあるグラジアス家であれば、例え妾であっても悪い話じゃないだろう」

「……そんな都合の良い」

「今の方がよっぽど都合良くあの子を束縛してるよ?」

「………………」

「そもそも何でスッパリとケリをつけられないのさ? そこからして自分の事が誰よりも分かってないんじゃないかい?」

「……分かって、無い?」

 それで二人の会話は途切れたが、バモンはブツブツと何かを自問自答し続けていた。
 やっぱ野郎はしょっぱいな! おにゃのこの甘いのキボンヌ!


 ………
 ……
 …


 一方女子ーずは、

「むはぁ! 生男爵オーラ凄かった!」

「わ、私は怖かったよ……」

「(ジワァ、フルフルフル)」

 ベティはベティだった。メイリアは怯えていた。ミリーは今だに怯え続けている!

「うふふ、うちの人が御免なさいね」

「いえ! 至福でした! 鬼将軍のオーラも感じてみたかったです!」

「……ねぇ、ベティちゃん?」

「何でしょう!? クロード夫人!」

「もしかしてうちの人やお父様の事……」

「……? ああ! 大丈夫です! マル君と一緒で、そういうのでは全く無いので! 武人要素にしか興味はありません!」

 爽やかな笑顔で言い切るベティに、ステラも流石に引き気味だった。

「でもね? ベティちゃん。もしうちの人みたいに強い人が『お前が欲しい。俺のものになるなら戦場へもどこへでも、ずっと一緒に連れて行ってやる』なんて言われたら……」

「どこまでもついていきます!」

「駄目よ? ベティちゃん? 絶対に、駄目、だからね?」

「ぇぇー……」

「貴方は女の子なんだから、自分を大事にしなきゃ駄目なのよ?」

「そんなものは何時までも使えるものではありませんので! 使える時に使わねば!」

「駄目って言ってるでしょう?」

「ベティ……」

「はっ、はっ、ハレンチ、ですわっ!」

 会話にならなかった。っつか、甘いのはドコンヌ? 激辛なんですが……。

「はぁ……。ちなみにどれ位強ければ流されちゃうの?」

「ステラ様ぁ!?」

「ミリーちゃん、こういうことはちゃんと知っておかないと」

「そうですねぇ……少なくとも私の魔法に耐えられる人ですね!」

「うん? そう、なの? えっと……?」

「ベティは多分、男爵家では随一の魔法の使い手です」

 視線を向けられたメイリアが答える。

「そうなの?」

「そうですわ。悔しいことに、男爵家にあって魔法の寵児と呼ばれたエッシャー家の私なんかより、よっぽど強いのですわ。恐らく、バークス様でも耐えきれるかどうか」

「お父様でも!? それは……凄いわねぇ」

 またしても人外だったか。バモンがボコられてた時は危険視してなかったのかね?

「ただ、それが明るみになると魔法兵団に編入される可能性があるため、本人は嫌がっています」

「仮に入るとしても国境警備隊等の、ガチ戦闘が見れるところじゃないと嫌。できれば魔法は薄めで」

「魔法の才能に溢れているというのに、それらを蔑ろにした挙句、魔法の使用頻度の少ない場所の前線兵に配備されたいとか……。すっごい贅沢な物言いなのですわ……」

「そう、なのねぇ……。強さに関しては分かったわ。でもこれ、安心して良いのかしら?」

「大丈夫です、ステラ様。ベティのお母様はもう色々諦めてますので」

「えぇ……? 娘を持つ親が諦めて良いところじゃないと思うのだけどぉ……?
 あ、ベティちゃん、一つだけ気になっちゃったことがあるわ」

「? 何でしょう?」

「もし敵国や魔族に同じような勧誘を受けたら……」

「討ちます!」

「そう、討つのね……えっ? 討つ?」

「私が認めるのはこの国の中でですわ! 敵国や魔族はそもそも人間枠にありませんので」

「えぇ……。魔族はともかく、敵国もなの?」

「そうですよ? 人の心があるのに、利己的な考えで他国を侵略する輩を人間枠に納める必要がありますか?」

「極論ねぇ。上の命令で嫌々従っているかも知れないでしょう?」

「だとしたら、その下の者達は結託してクーデターを起こせば良いのです!」

「それができるところがどれだけあるか……」

「それはいかんなベティ嬢」

「マクシマス様!」

 くねくねして目がハートマークなベティである。……何だろう。可愛いはずなのに、可愛いはずなのに怖い。

「ええ、駄目ですよ? そんな考えでは勝てる戦も血みどろになります」

「ゼオルグ様! ……天国はここに!」

 ベティが諸手を天に掲げて喜びを顕にしてる。とりあえず天国じゃあないんじゃないかな。下手すると地獄の一丁目かもしらん、あの事件の隣国の当事者達にしてみれば。そして塩盛り盛りですか?

「もし敵国の兵が、自分達は相手国にとって殺すべき相手だとしか認識されていない、とそう分かったらどうなる?」

「? 何か変わるのですか?」

「ゼオルグ、それでは分からんだろう。ベティ嬢、もし敵国で捕まりそうになったらどうする?」

「死ぬまで戦います!」

「それは何故かね?」

「捕まっても人として扱われないと思ってるからであります!」

「それを敵国に置き換えてみようかの。こちらに攻めてきた敵国の兵は上の命令で嫌々従っているとしよう。しかしこちらには敵国の兵を迎える用意がないどころか、見つけ次第殺すとしたら?」

「……敵国の兵も、何がなんでも捕まってたまるかと、死ぬまで戦うと思います」

「ベティ嬢は戦争が起こったら、相手を皆殺しにするまで終わらせないのかね?」

「そ、それは……上の人が、考えることで……」

「しかしベティ嬢の戦い方や考え方を見知った敵国はどう思うだろう? 降伏の余地はない、と思うのではないか?」

「………………」

「君が戦争を終わらせるために頼ろうとした上の人としては、任せられるまでもなく君が退路を断ってしまっておる故、戦争は敵国の全滅を持って成す以外に無くなっておるな。
 嫌々従っておるのでなく、嬉々として戦争に加担しておるのであれば、儂とて皆殺しもやむ無しと判断するであろう。が、無理に相手を追い込む必要もないのだ」

「……ですが」

「君が前線に立つような事があれば、今しがた口にした覚悟は持っておってもよかろう。何せ可憐なお嬢さんだ。ろくでもない未来が待っていることは想像に易い。しかし、相手を追い込む時、または上に立つことがあったならば、この時の儂の話を思い出してくれると嬉しいのぉ」

「……分かりました。私、士官になる勉強もしてみたいと思います!」

「そうか」

「そうか、じゃありませんわ、お父様。ベティちゃんの未来を、血生臭い戦場に固定しないで下さいまし」

「しかしメアラ嬢の様なのを増やさぬ意味では致し方あるまいて?」

「そうですが……」

「義父上の言う通りだよ? ステラ。コレばかりは見識を増やしてもらう以外に無いと、僕も思うな……」

「貴方まで……」

 甘々なのはどこぉぉおお!? むしろ喪女さんが居る方が甘々が展開されるってどういう事ぉ!?

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