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右腕、覚醒……不発

「ほらほら、フローラ様? 機嫌を直されて?」

「うう、ミリー、私は羞恥で灰になりそう」

 フローラがミランダに介抱されている。脇に立っている元凶のベティは無表情だ。そして一緒に居るメイリアは苦笑している! まぁでも、喪女さんは既にある意味ハイだわな。

(恥っかきハイですかそうですね)

 だめだな。ツッコミに切れがない。

「フローラ様? わ、私もフローラ様の事、だ、大好きですわよ?」

「ミリー? 私一人に大好きって言ってくれるのに、そこまで言葉が詰まるのよね? この大勢を前に大きな声で言える?」

「絶対ムリですわ!」

「無理って言われたぁあああ! やっぱり私は恥ずかしい奴なんだわぁ!!」

「ああもう! どうすればよろしいんですのぉ!?」

 ミランダ嬢の優しさもフローラには槍で突かれるかの様な仕打ちであったらしい。人の好意を無碍にする喪女さんだった。

(それ位恥ずかしさは留まることを知らないのよぉ!)

「放っときなってミリー。私が『聞いちゃったけど聞いてないよ? ホントは聞いたけど聞かないふりしたげるよ?』って言ってあげればよかったんだから。ね? フローラ」

「何かベティが今日は優しくない……」

「バミー達に恥ずかしい所見られたのは何回あったかしら?」

「その節はどうもすみませんでした」

「え? あんなのが他にもあったんですの!?」

 別格貴族達との初会合時、別格貴族が履けた後、フローラ・メイリア・ベティでキャッキャウフフしてる所を、バモンやマリオの男子陣に見られてると知りながら、フローラは続行した前科がある。

(言い訳のしようも御座いません)

 ミランダを巻き込んだのは、バモンやマリオの駄目な所を、本人達がミランダの後ろに居ることを知りながら語らせていた前科である。ベティやメイリアも、否定すること無く受けたり苦笑したりしていたので、似たようなことを感じていることをバラしてしまったという大悪行だ!

(大……が、つきますかそうですか)

「……フローラ様」

「……何でしょうミランダ様」

「これもたまには良い薬ですわ」

「清々しい笑顔で見捨てられた!?」

 愛想が尽きたのねぇ。

(ぃやめて!?)

「んもう、んもう! 私あの時すっごく恥ずかしかったんですのよ!?」

「あ、はい。ゴメンナサイ」

「そうでなくても、フローラ様は私をおからかいになりすぎなのですわ……」

「だってぇ……」

「だって何です!?」

「ミリーってば可愛いんだもん。ついからかいたくなっちゃうのよねぇ」

「(ボンッ)んもう、んもうっ!」

 ミリーがこの上なく分かり易い照れ方をした。真っ赤っ赤ーである。ミランダまっ

(言わせねえよ!? どこかのエルフの奥様の名前に寄らせたりさせねえからな!)

 厳しい喪女だった。

(いや、こういうことはきっちりやっとかないと……)

 ゲームとか漫画やアニメなら良いのに?

(駄目なんですー。はい! この話はここで終了!)

「もう機嫌は直ったの? フローラ」

「お母様……。もう、お母様も意地悪です。皆が来てるならそう仰って下されば……」

「うふふ、ごめんなさい。でも大好きってあんなに大きな声で叫ぶとは思わないじゃない?」

「うぐぐ……」

「皆さんもフローラの誕生日パーティ楽しんでいってね? 身内だけの小さなものだから気軽にね」

「……へ? 誕、生日?」

「あらあら、自分の誕生日忘れていたの?」

「……あ、あー! (チラッ)」

「(コクコク)」

「(チラッ)」

「(コクコク)」

 フローラがミランダ達に目配せすると、頷きが帰ってくるのを確認する。そしてようやく実感が湧き、

「ああ、色々あり過ぎて忘れてました。皆! ありがとう! やっぱりみんな大好きよ!」

 あーあ。吹っ切れやがった。

(あーあって何さ!?)

 どうせ本気で自分の外身の誕生日の事なんて頭から抜け落ちてたくせに。

(……否定できない!!)

 フローラが吹っ切ったのを切っ掛けに、バモン、マリオ、マルチェロら男子陣が寄ってきた。

「ハハッ! フローラ嬢もちゃんと普通の女子だったんだねえ!」

「ちゃんと……って何ですか」

「いや、あの位の事で恥ずかしがるような……いや、何でも無い」

「そりゃあバモン君はもっととんでもない所を見聞きしてるかも知れませんが、一応女の子ですわよ?」

「ととと、とんでもないってどう……ああ言え結構です、聞きません! 聞きませんとも!」

「……実際聞かせるようなことではないのだけど、そこまで全拒否されるとそれはそれで、ねぇ?」

「じゃ、フローラも復活したことだし、私は鬼将軍と右腕のお話を聞かせてもらってくるわね!」

 ドヒュンッ! って音が聞こえそうな速度で離脱するベティであった。止める間もありはしない。

「もうベティったら……」

「まぁまぁ、ベティらしいじゃない」

「そ、そうですわっ! ね」

「まだ照れてるの? ミリー。(ボソッ)ミリー可愛い」

「(ボフンッ)うにゃあ!? にゃ、にゃにを……」

「飽きるなんて無理ね」

「ちょっとフローラったら」

「ふにゅう……」

「……僕等はコレを見てて良いのだろうか?」

「責は全てフローラにありますので」

「ふわぁ、そそそ、そうなんですねっ……!」

 本気になったフローラに遠慮は無かった!

(そして男子共の責は負わん)

 だってフローラさんだぞ!?

(なんでネタ風に言った?)

 あれ? こっちはオッケーなの?

(美味しいって思われることもあるみたいだし、悪用じゃなければ良いんじゃない? 面白いって思って使ってもらうのを嫌がる人は少ないと思うけど……。好かれて無ければ使われもしないし)

 喪女判定は基準が不明だ……。

(どこぞの謎判定イミフだよなーみたいな言い方しないでー)

「で、マル君」

「……あぇっ!? はっはい!」

「反応鈍かったけど、普段そう呼ばれてないの? そう呼べって聞いた記憶があるんだけど……」

「あ、あはは、そんなことはないんですよ。ちょっと下町の友達なんかには、マルっちーとかマルちーとか呼ばれるのが多いので」

「そっちのが良い? ならそう呼ぶけど、私以外は辛いかなぁ。ねぇ? ミリー」

「えぇ……そうですわねぇ。ま、マルっちーさん? マルちーさん? ちょ、ちょっと呼ぶのが恥ずかしいですわ。ああいえ! 貴方のお名前が恥ずかしいのではなく!」

「あああ、いえいえいえ! 分かってます分かってます! 家族はマルとかマルチと呼んでるのは本当ですから、是非そちらで! ……戸惑ったのは、貴族様方が私を愛称で呼んでくださるとはおもい……」

「はいストップー」

「もよっ!?」

 もと!?

(そんな風に誕生したんじゃないだろう。どうやって作ったかは知らんけど)
「マル君と私は何? ……いえ、マル君と私達は? はい!」

「ぼ、ぼくと皆様は……と、とと、友達?」

「せーかいっ!」

「ふわぁっ!」

「だから、分かった? 畏まる必要はないわ。身内だけのパーティなんだから。ね? ミリー、メイリア」

「そうですわ、マル君。ええ、こちらなら呼び易いですわね」

「そうだね、マル君。これからもよろしくね」

「ははは、はいっ! こちらこそよろしくです! そしてフローラ様!」

「さまぁ?」

「……フローラさん。えへへ……。(すぅはぁ)僕もフローラさんのこと、大好きです!」

 そして時は止まる! 哀れ、小動物ことマル君は、自分の発言がどういう影響を及ぼすか分かっていない!
 ……おーいフローラー、生きてるかー? 息してるかー?

(はっ!? 意識が宇宙に飲まれるところだった!?)

 どこの力使い過ぎな新人類さんなんだ?
 その時一陣の風がフローラ達の脇を通っていった。

「マルチェロ君?」

「は、はいっ! あ! ゼオルグ様!」

(うえ!? お父様!? あ、駄目だ! マル君逃げてー! 超逃げてー!?)

 しかし、小動物マル君は気付かなかった!

「それは将来、を……見据えての発言かい? それとも……?」

「将来、ですか? それはどういう意味かは分かりませんが、先程友達に向けてフローラ様が仰られていた言葉に対する返答です! フローラ様が僕等を大好きと言ってくれたように、僕のことを、僕の家を友達だからと助けてくれたフローラ様や皆様のこと、僕も大好きだと言いたかったのです!」

(ぉおぅ……めっちゃ純粋やった)

 フローラさんが浄化され……るわきゃないか。

(おま、失礼だな! あ、でもお父様の威圧が消えたわ。割ときつかったらしく、無事だったのは身内と……え? マル君だけ、だと? ベティは!? あ、ハァハァしてた。ブレねえな……)

「そう、か。フローラの友達としてこの子を支えてやってくれると、父としては嬉しく思う」

「はい! 勿論です! ……ん? 父とし……ああっ!? そそそ、そういう意味では! ああいえ! フローラ様は魅力的な女性ですが! えっとえっと、違うんです!」

「すとーっぷ! マル君!? 落ち着いて!?」

「おちおちおち、(すっはっ、すっはっ、すっはっ、すは! すは!)……きゅうぅぅ……」

「わぁ! マル君!?」

「ああ、こりゃ過呼吸だね。テンパり過ぎたみたいだ」

 こうして小動物かつ小心臓なマル君は倒れてしまいましたとさ。南無南無ちーん。

(死んでねえわ!)

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