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華麗なる自爆

 フローラの死刑が確定した所で、

(してねえよ? 何で何時も悪い方向へ言い換えるかな??)

(『フローラ? あれもうノーコンちゃんの生態なんだから諦めなさいな』)

 そうそう、諦めなさいな。

(ぬっぐぅ……)

 クロード家とグラジアス家関係者一同の邂逅は、フローラが最初に危惧したような修羅場にはならず、むしろメアラの新事実のこれでもか! なオンパレードに終始した。

(そっちは意外過ぎて一瞬魂抜けたわ)

(『残念』)

(残念って何!? どゆ意味!?)

 魔王さん、そいつの言ったのは比喩表現だから、本当に魂は抜けないんだぞ。

(『なぁんだ、やっぱり残念ねぇ』)

(狙われた!? ねえ!? 狙ってたの!?)

 やっぱり体が目的だったのね!

(黙っとけ)(『黙ってなさい』)

 あれー??

(『まぁ実際? アンタの魂が抜けた所で入る余地は無いのよ。死んでる方の子が許可出さないだろうから』)

(え? そういう仕組みなんです?)

 ほぉー。

(『喜びなさい? フローラ、いえ美作可憐。フローレンシアはアンタの事、好きみたいよ』)

 えー? こんな残念喪女がぁ?

(あんたは黙ってなさいよ。……でもそっか、えへへ。嬉しいなぁ)

「どうしたの、フローラぁ? 何か良いことでもあったかしらぁ?」

「ああいえ、お母様。私は素敵な良い人達に囲まれてるんだなぁって」

「あらあら、うふふ。良かったわねぇ。私は貴女が皆に愛されている、ただそれだけで嬉しいわ」

「はい!」

 今現在、馬車にてハトラー伯の屋敷に移動中である。母娘の睦まじい姿をほっこり見守る男共の図は何とも言えんな。泣く子も黙る鬼将軍と右腕なのにな。
 ちなみにこれは比喩ではなく、子供を諌める時に使われる位の勇名らしい。だが「悪い子は鬼将軍が食べにやってくるぞ! 嘘吐く子は鬼将軍の右腕が顔剥ぎに来るぞ!」っていう……割と洒落にならない脅し文句に使われてんだなおい。

(顔を剥ぐって……お父様の傷の話から来てるのかしらね?)

(『でしょうねぇ。結構大きな傷痕だから……』)

 まぁ傷痕って言うよりは火傷後だけどな。あの範囲で皮膚が削れる傷を負ったなら多分、あの部分全欠損状態で歯は剥き出しになると思う。よくあるゾンビの頬が落ちたアレ。

(止めてよ! 想像しちゃったじゃない!)

(『嫌ぁ!? 想像しちゃったじゃないのさ!』)

 そういう所だけは特に仲良いよね……。っつか、魔族にはアンデッド系とか居るんじゃないの?

(『私は基本的に繭の中しか知らないから、そういうモロな奴が居るかどうかまでは知らないわよ』)

 さいでっか。
 俺達が下らない話をしてる間も馬車は進み、やってきましたハトラー邸。馬車が着くなり鬼将軍はさっと下りて夫人の下へ。右腕は妻と娘をエスコート。見事な役割分担である。

「あらあら、フローラ、久しぶりねぇ」

「お久しぶりです、お祖母様」

 デジャヴかな?

(『私もデジャヴかしら?』)

(母娘ですからその行動や言動、見た目まで良く似てるわよ)

(『って言うか、え? お祖母様?? ……アンタのお母様と姉妹じゃなくて?』)

(御年46歳の、れっきとした私の祖母ですわ、乙女様)

(『いやぁあん! 羨ましい! え? マジデ? 凄いわね!』)

 誰もが驚く美人母娘とついでに孫の外側のみ、である。ちな、胸の装備の充実度は祖母>母>娘>>中身である。

(ついでって何さ! わざわざ外側って言わなくても良くない!? それに中身の装備に触れる必要まであったかしらぁ!?)

 情報は正しく面白く。

(面白い必要はないでしょ!?)

 要る、絶対。

(何で『ダメ、絶対』みたいな言い方したか!?)

「立ち話もなんだ、早く屋敷に入ると良い」

「そうですわね」

 お祖母様はニコニコしながらお祖父様と共に、皆をエスコートしていく。薄情なフローラは余り来ていなかったが、流石鬼将軍……じゃない、ハトラー伯爵家。結構豪華な邸宅だ。

「儂は余り豪奢なのは好かんのだが、主家に押し切られてな。やむ無しと言ったところだ」

 フローラがジロジロ見て回るので、お祖父様は察した様で言い訳している。

(違うわボケェ。この子の記憶との差異がちょこちょこ見つかるから気になったのよ)
「以前来た時は様相が違いますものね」

 言い訳がましい中身さんだったが

(オイコラ。遂に中身呼びか)

「うむ。儂としてはこんな所で隠居してるつもりはないと言っておるのだが、隣国を刺激したくないの一点張りでな……。そのくせ前回、フローラの友達の坊主、何と言ったか? 商家の……」

「マルチェロ君ですわね? プライ家の」

 そうそう、耳にセンサーの着いた……

(着いてねぇよ!? 相性がマルチなだけで緑の髪でも女子でもロボットでもないからね!?)

 よく知ってんな。

「そうそう、そのプライ家がな? 主家に手を回して改装を手配したのだ。『将軍のお屋敷を是非改装させて頂きたい。主家たるザルツナー辺境伯家には話は通してありますので』等とのたまいおって。頷く以外にあるまいよ」

「ご、ご迷惑でしたか?」

「個人的には何とも言えんのぉ。お前も友達を思って行動したのだ。礼など不要であろう?」

「そうですわね」
(課金アイテムキタコレと思ったのは黙っておこう)

 安定のゲスい喪女さんでした。

「故に断られることも想定しての主家の巻き込みであろうよ。あちらにはあちらで何かしておるらしいしの。……先代とやらは食えぬ奴であったわ。フローラとマルチェロ君の出会いをも、計算していた節まで考えられそうじゃわい」

「そこまででしたか……」

「あの商家は定期的に没落したり隆盛を極めたりしておる。栄枯盛衰とはあの家のための言葉やもしれぬ。その頻度は短いがな。今は丁度拡大期なのやも知れんな。
 ……このようなことをフローラに言うのは祖父としては心苦しいが、良い知己を得たと言えるじゃろう。落ちぶれる時ならいざ知らず、伸びる時期のあの家を取り込めた者は共に栄華を極めるという。普通はその底辺を誰も察せぬ故、伸び始めてから近づくものなのだがな……」

「お祖父様……」

「ま、そんなことは瑣末なことよ。先程ステラも言っておったろう? 『皆に愛されているそれだけで嬉しい』と。儂らもそうじゃよ。例えあの家が落ち目であったとしてもお前の友であるならば、手を差し伸べぬ理由は一つもない」

「有難う御座います! お祖父様! 大好きですわ!」

 それほどシワのない顔にシワを作って満面の笑みを浮かべ喜ぶ鬼将軍は、もうただの孫好き過ぎる爺様だな。

「あらあら、フローラ? 私はぁ?」

「お祖母様も勿論大好きですわ! お母様も! お父様も! 友達も、みぃんな大好きですわ!! 私、幸せです!!」

 幸せいっぱいのフローラに、家族達は皆笑顔だ! 使用人達も微笑んでいる! 実に微笑ましい!
 ……所で中身のくたびれた中年さん? やってて恥ずかしくなぁい?

(やめろや、素に戻らせんな。こういうのはノリだろ、ノリ。っつかくたびれた中年はやめろや。フローレンシアになった後、自我が覚醒からの記憶は短いんだよ。だから享年=中身、オーケー?
 ……あれ? ってか乙女様は? こういうことには超反応しそうなんだけど……)

 オーケーではないな。フローレンシアの記憶と融合が済めば、やっぱり享年+今年齢で……ぶふっ。

(こんにゃろが……)

 それより手招きされてるぞー。

「さ、フローラ。皆も待っておる。早く食堂へ向かおう」

「……え? え? 皆? 食堂?」

「身内だけの宴ゆえな。豪華にはしておらんが、お前も華美なものは苦手であろう?」

「え? え?? 宴??」

 食堂の入り口で、鬼将軍と右腕が左右に分かれて陣取ると、フローラを導くように扉を開く。するとそこにはフローラの級友達+マルチェロ君の姿が!

「「「「「「………………」」」」」」

 ……その一部はちょっと恥ずかしそうにしている! これは……もしや!?

「……あ、あの、もしかして」

「(ボソッ)みぃんな大好きですわー」

「ギャアアアアアア!」

 ベティがセリフの一部を抜粋して、全部聞こえたであろう事を示唆すると、フローラは両手で顔を隠して蹲ってしまった。フローラの機嫌が元通りになるのには時間がかかるであろう。あー、恥ずかし。

(ちくしょおおおおお! ノーコンこんにゃろ、知ってたな!?)

 メイリア苦手な魔王さんが居なくなった所でお察しでした。

(うぐぅ、そっかー……って乙女様居ないの気付いたのついさっき! 叫んだ後ぉ! どっちみち手遅れじゃん!!)

 それも知ってた。

(ぬがぁ!!)

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