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「覚悟、いいか」
「……うん」
静かに目を閉じ、その時を待つ。一秒、五秒、十秒。たった一秒が永遠に感じる。伝える言葉は決まってる。これしかない。だからこそ、想いが溢れ出そうになって、言葉が詰まる。
「何度、生まれ変わっても……ずっと君を愛してる」
感情は、どこまでも素直だった。
視界がぼやけて、鼻水をすすり、必死で嗚咽をこらえながら俺は思いを伝えた。振り返ると、両目をはっと真開いた彼女もまた、歯をしばって、とめどなく涙腺をこぼしながら「うん」と頷いた。
「ちゃんといい人作って、長生きしてね。生まれ変わる時は同い年になるように合わせてね」
「リクエスト多いわ。上から覗き見て妬くなよ」
「いい人を大切にした分だけ、いい男になって次のあたしに返ってくるもん。むしろ望むところだよ。絶対、絶対だよ」
「会えるよな……俺たち」
「君がすべてを忘れても、あたしが君を捜してみせる。次こそ、世界で一番幸せな女になってみせるよ」
にかっと笑った御幸の全身が光となって、その姿がうっすらと粒子になって透過していく。
「ごめん。いっこだけ嘘ついた」
「なんだよ」
消え去る中で彼女は無邪気に歯を見せる。
「今だって世界で一番幸せ。出会ってくれてありがとう。愛してくれて……幸せ過ぎた」
最後の涙腺をこぼした御幸を抱きしめようとした刹那、粒子は消え去って、勢い余った俺は両腕で自分の身をつかむ。ひざまずいてもどれほど泣きわめいても、そこに御幸はもういない。
旅立ったんだ。俺は、ちゃんと送り出せただろうか。1ミリでも、あいつを支えることができただろうか。
夜の神戸に、粉雪が舞い降りてきた。光を帯びた、まるでプリズムのような光輝く思いが。