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そんなの、いつだって俺も同じだよ。叫びたいほど伝えたいのに、声が出ない。出そうとするとすべての感情が溢れでて、制御できなくなる自分がいる。
「御幸……」
「ゆえに!みゆきさんはちょいとばかし背中を押してほしいのです。最後のお願い、聞いてくれる」
わざとくだけた口調で本音を隠すあたりは、なんにも変わってない。軽い感じに話して、可能な限り相手に重さを背負わせないようにするところも。
お互い知り合って十五年。こういう風に話すとき、どういう気持ちでいるかも分かってる。
「どうぞ」
「心からあたしに叫んで。大嫌いって」
再び強い風が吹きつけてきて、乱れた彼女の前髪が目を覆う。外気の冷たさと、フラれたときのようなぞくっとする心に突き刺さる寒さ。ふたつが相まって動揺が体中に走って思考が正しく働かない。
でも。きっと。
俺以上に、頼んだ方が辛いにきまってる。矛盾する言葉をもって送り出すなんて、ただただ性質の悪いショック療法だ。それに、そんなこと言ったお前が何を言うかもわかってる。わざと呪ってやるとか言って俺の想いを減らすに違いない。
小常御幸という存在が俺の負担にならないために。
御幸、俺はどうしようもなく不器用だ。ヒトという存在を信じる気持ちはお前が教えてくれたから、信じることができた。ヒトを支える大切さを知った。今の俺を支えているすべてだ。お前がいなければなんにもできなかった自信がある。
然るに、俺だって三十余年、伊達に生きてるわけじゃない。背中から聞こえる話し声。利用しない手はない。