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立ち上がった彼女は両手を後ろに組みながら、瀬戸内海へと遠ざかる遊覧船をじいっと見つめる。
「七回も想ってもらうとね、未練を超えて新しい心が芽生えるの。会ってるけど会っていない関係ってさ、私が嬉しくなるほど、君がどんどん苦しんでいく」
「そんなことあるか!今年かて俺は!」「お互いに、進まなきゃって思うんだよ」
「俺……こんままで、かまへん」
「あたしそこそこ嫉妬深いからさ、地縛霊になったら凌輔に四六時中憑りついちゃうよ。うっとしいほどまとわりついて、鼻の下伸ばしたら引っ張って泣かせちゃうもん」
「ええよ。一緒におれるんなら、それでええ」
「ほら」
前かがみになって、彼女は悪戯な笑みを浮かべる。
「凌輔、優しいもん。絶対それを許しちゃう。でもね、それをやってしまった分だけ次に生まれ変わったときに凌輔と出会えなくなる気がするんだ。いびつな形で君を縛り続けた分だけ、会えなくなると思う」
一歩、二歩と前に出た彼女がどこか遠くに行ってしまいそうな感じがして、思わず俺は彼女の名を呼んだ。背中を向けたまま彼女も「ねえ、凌輔」と言葉を返す。
「凌輔は凌輔の生きたいように生きて。あたしを記憶から消し去ってでも、幸せのかたち、見つけてね。今日からも、次に生まれ変わっても」
「でもね」
振り返った彼女は、夜風に髪を流されながら微笑んだ。
「あたしさ、生まれ変わってもまた会いたい。凌輔の名前や姿が変わっても、また君と出会って、色んな馬鹿やって、凌輔がいいって言ってくれるなら、見れなかった夢の続きを追わせてほしいな」