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「ねえ、新幹線の終電、何時なの?」
「翌朝の始発に乗ればええよ。そっちこそ、何時までおれんの」
ふふ、と苦笑して、彼女は夜空に顔をやった。
「いつもなら、シンデレラと同じ時間に魔法が切れるんだけどさ、今日はちょっと違うの」 「違う?」
「そこでクイズです。こういう形であたしたちが会うようになって、何度目かな?記念日みたいなもんだもん、覚えてるよね?ね?」
「……七度目の、師走や」
暗がりの港沿いはすっかり冷え切っていて、言葉を発するたびに口から白い息がふわりと宙に浮いて消えていく。頷いた彼女は言葉を発さずに地面を見つめていて、通り過ぎる遊覧船の汽笛が大きく響き渡る。
七年前なら、この沈黙というものにお互い耐えられなかった。必ずどちらかが話題を振って、無理にでも明るい雰囲気を作って『楽しい』を前面に押し出していたと思う。
-デートは一緒にいて楽しいが一番、一緒に笑って気兼ねないが一番。
他ならぬ彼女が言ったことだ。今となっては昔語りになるけど、不器用ばかりで散々な出来だったかもしれないが、俺なりに、忠実に守り続けたと思う。
だからこそ良くも悪くも沈黙を感じることが多くなった七年間でもあった。
「年忌ってさ、結構馬鹿にできないんだよ。あたしみたいに未練がましくいるとさ、神様からいい加減肩を叩かれるの。もうそろそろ、次のステップでもいいんじゃないって。別に神様に言われたからじゃないけど、でも、たしかに薄れてもいる。ここに縛られたい、未練が」