7th:ヤケ酒におぼれるゆうしゃさま A
「こーんな結末ってさあ、あるぅ?」
決戦後、真夜中になっても俺たちは居酒屋の隅っこの席で飲んだくれていた。テーブルには空いたグラスがところせましと並んでいて、いよいよ置くスペースもない。
状況を見ながら空いたグラスを回収してくれていたサナも今しがた笑顔で手を振りながら店から去っていった。とっくに閉店時間を過ぎているにも関わらず、ルカの親友というだけでサービス残業をいとわないサナの善意に俺たちは全力で甘えていた。甲斐甲斐しい彼女すらついに去った店内は酔っ払いを除いて実に静かなもんだ。
「そもそも出迎えぐらいしろっへの。こっちゃ魔王倒した勇者さまご一行よ」
「サナがくす玉を割ってくれただろ。すっごいちっさいの。あれで我慢しろよ」
飲むとそこそこタチが悪くなるルカは、もう完全にできあがってしまった。機嫌を損ねようものなら街のひとつやふたつ、大魔法で吹き飛ばしかねない。
ツミタ印の宝玉を俺はじいっと眺めた。話しかければ出会ったときのように答えてくれるんだろうけど、特別話すことがなければその気も起きない。
「でさぁ、どうする?」
一時間ぶりに同じ言葉を聞いた。今日だけで彼女の言葉は既に五周はループしている。
「帰りたい思いの強いほうでいいじゃんか。何周このやりとりすればいいんだよ」
そして俺も同じ周回に突入する。もうずっとさっきからこんなやりとりが続いている。
奪った宝玉は一個。宝玉が言うには叶えられる願いはひとつ。『どちらか』しか元の世界に戻ることはできない。
ひとりに向けた願いは叶えられるけど「二人とも帰してください」には「甘えるな」と宝玉にあっさり断言されてしまったからだ。粘って何度も下手に出てみたが「複数形はダメったらダメ」と最終的にはお叱りを受ける始末。
結果として、自称勇者二人が遠慮し合う茶番がエンドレスだ。あれだけ元いた世界に戻るんだと意気込んでいた過去の俺たちはいずこへ。
「なによお。君、未練たらたらって顔してるくせに。わたしぃ、知ってんのよ。一昨日相部屋のときに寝言でオンナの名前出してへらへらしてたもん」
グラスを俺に向けてルカが攻め立ててくる。初見だがその情報、こういう時の切り札にとっておいたのか。夢の内容なんか1ミリも覚えていないけど元の世界に対しての未練の有る無しはイエスだ。恥ずかしながら理由は指摘されたところにある。
「そりゃ、未練はある」
「ふーん……どんな?」
少し黙り込んだ俺は、隠す意味はないと自分に言い聞かせて白状することにした。