お……か? 魔王!?
「……! ……!! ……バミー!!」
「う……? あ、なん……?」
「良かった! 目が覚めた! ありがとうございます! アーチボルド様」
「良いってこった。……あいや、全部が全部とは言えねえな」
「俺は……? !? フローラはどうなった!?」
「ごめんなさい。私の魔法に巻き込まれて魔王ごと姿を消した……」
「あんたの魔法だと!? 何でそんなことになる!」
「落ち着き給え、バモン君。彼女は公爵家令嬢だ。先程の者達は話が違う。その言動は……」
「うるさい!! 仲間が犠牲になったかも知れないと聞いて落ち着いていられるか!」
パンッ!
「「「「………………」」」」
「静かにして」
「……メイリア?」
打たれた頬に手を添えながら、バモンは困惑気味にメイリアを見つめると、打った手を見つめながらメイリアが口を開く。
「バモン君の、せいでもあるのよ……? バモン君が淵へと落とされた時、フローラさんが激昂して……その……」
「その……? なんだ? 何があった??」
「バミーが食らったアレを魔王に御見舞したのよ」
「え゛っ?」
((((((((ああ、この子も犠牲者だったのか……))))))))
ベティの追加説明に、記憶がフラッシュバックしたのか少し腰が引けたバモン君。皇子様御一行からも、妙な同情を寄せられるバモン君であった。
バモン君を完膚なきまでに崩したあの攻撃……もはやこう命名しても良いのではないだろうか? バモン君壊し、即ち「バモンクラッシャー」と。……ツッコミが居ないと寂しいな。あっち行こう。
………
……
…
「お……。か? う、うーん……? あれ? ここ、どこ?」
風呂オラさんが目覚めると王侯貴族が使うんじゃないの? って位豪華に放り出されていた。周りを見渡すと、青黒い肌、銀の髪、そして……白目を剥いて泡を吹きある部位をおさえて内股に蹲る、哀れな魔王であった。
「……やっべ」
置かれた状況の不味さに危機感を覚えたものの……
「………………(ピクピク)」
本来怖い位に美しいはずの魔王の、その、何と言うか、哀れ過ぎる? 格好に……。
「ぶふっ……」
「何笑っちゃってくれてんのこの小娘ぇ! あんたの仕業でしょうが! 少し位の反省の色も無いワケぇ!?」
「……ひゃあ!? ごめんなさい!? ……え? ……は?」
「ぐう……まだ響くわこの痛み。もう……何なのよ、男ってばこんな痛みを生じる器官を体の外側に置いてるとか、気が知れないわ……」
「……何でオネエ?」
「誰がオネエよ!? 私は由緒正しく心は乙女よ!」
ズバババーン!
あ、そうだ風呂オラさん。貴女の金的をバモンクラッシャーと名付けました。
(バモン君に謝れ!?)
そうそうこれこれ、これだよこれ。
(いきなり何言ってんの!? こちとらオカマ王でいっぱいいっぱいなのよ!)
あっはっは!
「何がオカマ王よ! 上手いこと言ったとか思ってんじゃないわよ!? 大体中身は女だって言ってんでしょうが!
……というか、あんた変なの飼ってるわねぇ」
「はいぃ?」
「あら? あんた妙な思念を『飼ってる』んでしょ?」
「こいつの事分かるの!?」
マジで?
「マジよ?」
「じゃあこいつ取ったり出来る!?」
おいこら。
「ムリ言わないでちょうだい? ムリに取ったが最後、あんた死ぬわよ?」
「え゛?」
え? そうなの?
「何であんたの方がその事実を知らないのかワケ分かんないけど、その意識体とあんたの魂? ってか命が密接に繋がってるわ。見える限りは3人分。……2人と一匹? なのかしら?」
「2人……この姿のままの女の子?」
「察しが良いわね、その通りよ。すっごい薄っぺら、って言うか死んでるんでしょうね。んで、動かしてるあんたは……なんかみすぼらしいわね」
「悪かったな! モテそうにないくたびれた32歳独身女で!」
「あらあら、荒ぶってるわねぇ。納得しちゃったけど」
「……てゆーか、つい和んで話し込んじゃったけど、私あんたのこと許さないから! バモン君の敵! さあかかってきなさい! 蹴り潰してあげるんだから!」
「何物騒なこと言っちゃってんのよこの子ったら!? 思わず腰が引けちゃったじゃないの!
……そもそもあの子なら死んでないわよ?」
「え? そうなの?」
「紅いツンツンヘアーの子が飛び込んで助けてたわ。大体あの淵なら、落ちた所で死にゃあしないしね」
「え!? そうなの!?」
「ここは封印の間。魔王を閉じ込めるための場所、って解釈されてる所なのよ」
「あー……そういえばそういうのあったなー」
対魔王用大規模魔法の行使により、瀕死の重傷を負った魔王が、残る全ての魔力を使い切って作った黒い繭。更にその眉に対して封印術式を施されたのが『奈落の淵』だそうだby公式資料。
「ふぅん、そうなのねぇ」
「え? 何で魔王がそれを知らないの」
「だって私、気付いたらこの体だったんだもん。それにずっと繭の内側にいたんだし、外でどう呼ばれてるかなんて知るわけないじゃない?」
「……どゆこと?」
「あんたに前世があるように、私にも前世があんのよ。……あんたとは違う世界の住人らしいけどね」
「へぇ、そうなんだ。……女性だったの?」
「そうよ。清らかな乙女だったわ」
「……その清らかな乙女が私を何故拉致ろうと?」
「あんた、光魔法の使い手よね?」
「えっと? はい、そうです、が?」
「私をこの体から開放して欲しいのよね」
「……は? え? そんなことできるの? 光魔法で?」
それは初耳というか、何処の資料にもないね。
「この体の記憶なんだけどね。この体の持ち主も、元々は普通の人間だったそうよ」
「ううっそ、マジで?」
「マジで。で、世界の闇を祓う仕事をしてたらしいんだけど、それが何ていうの、勇者っていうの? その初代なんだってさ」
「………………」
「皆が求めるままに闇を祓い続けてきたらしいんだけど、中には『お前本当に人間か!?』って疑いたくなるような悪辣なのも居てね。で、精神が疲弊しちゃって……ある日、突然やめちゃったんだって」
「………………」
「勇者をやめてあちこち放浪してから40年も経った頃、そろそろ寿命が尽きるか、って時に事件が起こって……。今まで祓ってきたはずの闇が体を乗っ取ろうとしてきたんだってさ。寿命が尽きかけてたのにそこから10年、闇との争いよ? 気の毒よねぇ。ようやく主導権争いに競り勝った頃、気付いたら人を辞めてたんだってよ? 魔族、ってやつね。……ねえ、聞いてる?」
「聞いてるけど、さ。衝撃的に過ぎてテンパってる」
「まぁそこはどうでも良いのよ」
「いいの!?」
「良いのよ。本人もどうでも良かったみたいだし。
で、魔族になっちゃった勇者が変装して各地を彷徨ってると、自分と同じように魔族になっちゃった人、魔族が居たらしいの。どうも勇者みたいに打ち勝てた人は一握りだったらしいんだけど、理性を保ったまま人間より遥かに強大な力を持ったことで自分を見失っちゃってたらしいのよね。
で、魔族なのに光魔法でもって理性のあるなし関わらず、魔族を倒すってか弱体化させちゃってたら……ある日、気付いたら自分が魔王になってたそうよ」
「ああ、はい。それは流れで何となくわかります」
「で、一部の人は闇が祓われたお陰で人間に戻れたのよね」
「なるほど? それで私に闇の力を祓って欲しいと」
「そゆことなのよ。ね? 簡単でしょ」
「ふんふん、なるほど、分かりました。やってやりましょう……って誰が言うかぁ!?」
「えー! なんでよケチー!」
「その理論だと、私に魔王になれってことでしょうが!」
「違う違う。体を壊して精神を分離してほしいのよ。これでもこの体ってまだ壊れかけなのよね」
「精神を……分離ぃ?」
「加減を間違えたのか、魔族化が進みすぎてたからか、浄化が上手くいかず体が消滅した事例があるのよ。その場合精神体だけになったようなの」
「んじゃ、貴女? が言う、私の飼ってるこいつって……」
「……何故に疑問形? ……ま、その一人の可能性があるわよね。どう? 違うの?」
いや、違うけど。
「違うんだ。ごめん、人違いみたい、ってか、精神体違いだったみたいね」
「軽っ!」
俺のことはさておき、あんたが精神体になるにしても依代みたいなものが必要じゃないのかね? 体が壊れたやつがどうなったか分からないんだろ?
「うーん、それもそうね。私も死にたいわけじゃないし。考えておかないとね。
でもまぁまだ先ね。貴女の魔力じゃ壊しきるまでには至らないし」