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裏話のあれやこれ

「それにね、この体から開放されたい理由は他にもあるのよ。いくらこの体がイケメンでも、自分自身じゃどうしようもないでしょ? 鏡でずっと見てきたから見慣れちゃったし」

 きゃー! いけめーん! まつ毛長いわー! 何このサラサラヘアー!? こんな表情しちゃったりし……ぎゃー! 滾るー! みたいなくねくねするイケメンを見続けて冷めたか。

「ええ? ちょっとあんた! 何でそんな具体的なのよ!? ……見てたの?」

「え? やってたの!?」

 やっちゃってたかー。

「……おほん、それはさておき」

「あ、ごまかした」

 ああ、ごまかしたな。

「うっさいわね! ……本当はねぇ、私にとって一番良いのは体を交換できる相手ができることなんだけどねぇ」

「え、なにその『交換』って中身とっカエルで苦労した、どこぞの特戦隊のリーダーの技……じゃなくて魔法は」

「そっちの方は相手の同意さえ得られれば、魔王の闇の力で交換可能なのよ。精神生命体になっても生き残れる種族っちゃあ、らしい、でしょ?」

「……便利に過ぎるわぁ」

「そうでもないわよ。なんせこの数百年、ここでじっと篭ってたんだから」

「そうなん……ぬぃいぃ!?」

「千年前、帝国に破れて封印されたって話は聞いてるでしょ?」

「うん」

 割と直近の話だよな。

「あれ、割と本気で死にかけてたのよ。そこからは長い年月を回復まで、ただひたすら耐え忍んで回復させるっていう苦行の始まりだったの。戦いならともかく、何もしない出来ないって状況には、勇者は耐えれなかったんでしょうね。あっさり心が死んじゃったのよ。ところが妙な所で魔族の例のしぶとさを発揮しちゃって……」

 精神体になった?

「そのとーり。帝国の大規模魔法ってのが光魔法によるものだったからか、壊れた器……体から精神体が逃れることが出来たのよ。ま、裏話もあるんだけど今は置いときましょ」

「じゃ、そのあと精神生命体になった勇者さんは、別の世界で貴女を見つけた……ってこと?」

「そうね。よく見つけてくれたもんだわ。ちょっと? いやかなり酷い条件だったからかも知れないけど」

 ちなみにどんな条件だったんだ?

「しばらくの間動けない体に文句言わず、ひたすらじっとしてることが出来、ちょっと体が特殊だけど文句を言わず、復活した後も無茶しないことを約束してくれる人」

「なにそれ!? 酷い条件じゃない!」

 しばらく……数百年動かずじっとできる上に、自由に動けるようになってからも、強大な魔王の力を振りかざさない人選ってことか。

「言い訳がましく色々ぼかしまくってたわねぇ。いざオッケーしてみたら数百年の不動タイムよ?」

「詐欺じゃん!」

「ほんと! そうよね! ……なぁんてね。実は、前世では生まれてからろくに動くことも出来ず、家族の迷惑になりっぱなしだったからさ。それの延長と思えば、迷惑かける相手もなく、快癒する未来が約束されてるだけマシだったのよね。
 ……ただ、生まれて初めて経験する激痛があんなにも耐えられないものとは思わなかったけど!?」

「あ、あははー」

 あ、でもさ? それで結局魔王の体を壊すってなら、何で勇者はほっといても壊れそうな魔王の体をあんたに託したんだ?

「それなんだけど、本人はあの攻撃で死んでも良かったらしいのよ。でも黒い繭を作ったのは体に染み付いた本能みたいなもんだったらしいわ。で、器から開放された後、もしかして自分と体の主導権を奪い合った闇が残ってるんじゃないか? 本能と思ってたのがそいつじゃないのか? って思い至り、もし器を壊すんならちゃんと壊したかったんだって言ってたわ」

「え? それ結局貴女に死ねって言ってない?」

「壊す壊さないは私の裁量に委ねられてるし、そもそも精神生命体になれる前提もあるしね。自分の例を元に確実に精神生命体になれるように用意してくれてるのよねー。だから何の問題ないわ。
 器を壊すにしても、実際私も光魔法を受けてみてわかったことだけど、あの攻撃は痛い、と言うより温かい、だったから。確実に魔族の体は破壊されるのに、痛くないどころか心地良いもんだから、魔族にとっては恐怖よね。それと分からず殺される……そうね、浴びれば苦痛なく死ねる太陽の光のようなもんだから」

「……え、ナニソレ、怖い例えね!?」

 良い例えだなぁ。外歩けそうになくなるような。

「あら、そんなつもりは無かったんだけど……。でも怖いことは伝わったわよね。痛みで怯むことはないけど、致命傷受けててもダメージがわからないんだから。
 ただ彼女の魔法、帝国4家合力の完全版じゃなかったからと言っても、この体の防御力を超えることはなかった。なのにあんたは物理攻撃とはいえ、私はダメージを受けたわ。悶絶級のね!」

「あ、あははー」

 アレは痛かったのか。

「自分でやらかしたことを笑ってごまかしてんじゃないわよ。魔法じゃなく物理攻撃だったのもあって死ぬかと思う位痛かったわ!
 ま、多分あんたのは魔法の質が違うんだと思うわよ? 例えるなら帝国の魔法は薄く広く仄かに照らす、あんたのは濃く狭く眩く人一人の体に漲る、そんな違いね。質で劣る帝国の魔法で魔王が瀕死になったのは、帝国中の魔力をかき集めた膨大な魔力量でカバーしたのも勿論あるだろうけど、魔王となった勇者自身が光魔法を上乗せしたんだと思うわ。
 最終決戦を前に、当時生き残っていた魔族を『奈落の淵』のその先の世界に送り、思わず使わされた黒い繭でとっさに蓋をした。……こういうふうに改めて彼の足跡を言葉にしてみたらとんでもないわね。仲間を守り、でも人も守ろうとする、なんてね」

「そう考えると、その勇者さんってなんだか凄いね。結局自己犠牲を厭わないんだもん」

「そうねぇ。私には、ム・リ」

 妙にでかい話だったんだな。『奈落の淵』ってのは魔族の世界の入り口だったのか。

「ええ、繭であるここがある以上、お互いは行き来できないけどね。勿論、魔王の器が壊れても維持されるように、勇者がいじってるわ。何だかんだ万能よねー」

「呆れたレベルのどチートですね」

「そうねー。何で『ただひたすら動かずじっと耐えるだけ』ができなかったのかしら……」

「いや、割ときついと思う……。あ、そういえばその勇者さんは何処に? 精神生命体になったあと、あちこち行ってるんでしょ?」

「あちこち世界を飛び回ったり、越えちゃったりしてるらしいわよ? そうやって私を見つけたんだしねぇ。本人は引き継ぎもできたことだし『やっと自由の身だー!』って叫んでどっか行っちゃったわ」

「えええ、ちょっと無責任……? 自由か!」

 あー、所で喪女さんや?

「なんだねノーコンさんや?」

「喪女? は分かるとして、ノーコン?」

「意味分かるんだ……脳内コンシェルジュ。略してノーコン。私が命名」

「ぶぅふっ! なぁによそれぇ」

 まぁ、割と気に入ってる。でだ。どうやって学院まで帰るつもりなんだ?

「……あ」

「あら、そうね。どうやって返しましょう?」

 死んだことになってるかも知れないし、生きてたとして魔王がどうして返したのか? って話になるだろう。

「うぐぐ……困った」

「私としては暇つぶしになるからここにいくらでも居てくれて構わないけど……。でも人間って飲まず喰わずじゃ居られないでしょう?」

 飢え死ぬな。

「帰る方向で調整をお願いします」

「こちらとしても頑張って魔力増やして欲しいし、帰ってもらうのがベストね。となるとぉ……割と不名誉な方法しか思い浮かばないわねぇ」

「不名誉? とは?」

「私があの公爵家の子? の魔法で大きなダメージを負った。それを良いことに事ある毎に股間を狙ってくるから怖くて放逐し……」

「名誉毀損だわ!?」

 でも角は立たないかもしれないなぁ。

「よねぇ」

「うぐぐ……。だとして、帰り方は?」

 担任か引率者の所に、魔王が『何時何処何処に乱暴娘を突っ貸す』的な手紙を置いてくるとか?

「妥当なとこね」

「……はぁ仕方ない。背に腹ってやつね」

 帰れないと餓死って選択肢は無いわな。んじゃ魔王さんや、文面を相談しようぜ。

「良いわよ。……ふんふん。そんなので良いの? え? そんなことまで。へぇ〜変わってんのねぇ」

「え? どゆこと? 私も当事者なんだけど、何故にハブられているのかな?」

「あらあら、そんなことまで書いちゃう??」

 書いちゃう書いちゃう! もっとやっちゃえ!

「話聞けやごるあ!!」

「じゃ、書き終えたし置いてくるわねぇ」

「え? あれ? ちょっと?? 何書いたのよー! こらー!?」

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