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怒涛の毎日

 ファッションロジック社で仕事を始めてから、毎日が新鮮な出来事の連続だった。今までやっていた業務の延長線上だと聞いていたが、フタを開ければ「社長秘書」というまったく未経験の仕事。
 事務的なサポートはこれまでもやっていたが、これまでは「業務のサポート」と言う意味合いが強かった。だが今は、社長という明確なサポート対象がいる。
 社長がどうしたら仕事を円滑に進めやすくなるのか、気付けば私は浜崎さ……社長のことばかり考えていた。
 社長の性格、考え方のクセ、行動指針。それを少しでも自分の中にインプットして、どんな対応がベストなのかを判断し、実践する。
 まだまだ社長の考えを完全に理解できてはいないが、この一週間で少しずつ分かってきた。(私にだけ)口が悪いところはあるけれど、関わる相手のことを真剣に考え、相手のために行動できる人だ。それは自分にとって、すごく意外な発見だった。
 それでもって、曲がったことが嫌いで正義感が強い。クールな見た目で、自分にはあたりが強めの浜崎が意外と熱い人間であることが分かった。
 二十八歳と、社長にしては年齢が若いが、年配の相手にも間違っていることは的確に注意できる。その勇気がうらやましいと思いながら、隣の机で社長の対応を参考にさせてもらっていた。
 そんな日々も過ぎ去り、ようやく金曜日!ファッションロジック社で仕事を始めるようになってから、初めての週末。初日からノンストップで業務をこなしてきたこともあり、ちょっと浮かれ気分だった。

 「神崎さん、今日はいつもより楽しそうだね」
 「あ、副社長、おはようございます。金曜日なので、お休みが待ち遠しいなって……」
 だだっ広い社内には、社員たちが自由に休憩できるようフリースペースがいくつか確保されている。自販機なども置いてあるので、出社後飲み物を買おうと出向いたところ、副社長の牧村(まきむら)さんに遭遇した。
 社長の浜崎さんは二十八歳とかなり若いが、副社長の牧村さんも浜崎さんと同い年。芝さんの情報によると、どうやら二人は幼なじみで、昔からの仲だそうだ。
 牧村さんもまた、浜崎さんと系統は違うが優しそうなイケメンである。いつもニコニコ笑顔が特徴的で、そのスマイルに癒されている女性社員は多いのだとか。
 「週末か、それは楽しみだね。どう?俊……社長に色々言われてイヤになってない?」
 「あ、ええ!そんなことないですよ、お忙しいだろうに、いつも丁寧に指示してくださいます」
 これは社交辞令でもお世辞でもなく、本当に思っていることだ。秘書という立場から、浜崎のスケジュールは週単位で把握しているが、文字通り分単位で予定が「びっしり」埋まっている。
 打ち合わせ、プレゼン、講演、会食などなど。社外の人と関わる予定が多いだけに、社内のことは疎かになりがちなのだろうと思っていたが、社内の業務においても手を抜くことはなかった。
 「そうか、それは良かった。何せ、社長が秘書を雇うのは初めてのことだからね。あ、先代社長にはついていたけれど」
 「え、私が初めてなんですか?あれだけお忙しいのに、それは意外でした」
 「うん、僕にとってもすごく意外」
 「そうなんですね……。でも、どうして私もどうして私なのかがちょっと気になります。私、これまで秘書の経験なんてないのに」
 「そうだねえ……。これは僕の個人的な意見だけど、社長と神崎さんは、何となくまとう空気が似ているというか……。社長も秘書を雇いたかったわけじゃなくて、きっと神崎さんだから秘書にしたと思うんだ」
 「私、だから……」
 「そう。だから、自信もって。社長、口は悪いけどイイヤツだからさ」
 「は、はい!ありがとうございます!」
 やっぱり副社長、とっても優しい人だなぁ。社長の仏頂面を見慣れていると、副社長の笑顔がすっごくまぶしく感じる……。
 「それじゃ、今日も一日頑張って」
 「はい!頑張ります!」
 よーし、休みまであと一日!今日も頑張るぞ!

 八時間後―――
 定時時間を告げるチャイムがオフィスに響き渡る。チャイムの音色こそ前の会社と違うけれど、鐘の音で動き出すのは変わらないところに何だか安心する。
 「ふう……」
 今日も大変だったけれど、業務の時間終了!それにしても今週はよく頑張ったなぁ。休日はゆっくり家で休もう……。仕事で覚えたことも復習しておかなきゃな。
 そう思い、帰り支度をしていたときのこと。
 ♪~♪~♪~
 「社長から電話来てる……」
 入社初日、社長から渡された社用携帯が鳴りだす。
 「お疲れ様です、神崎です。いかがなさいましたか?」
 「急な会食が入った。これから伝える場所に来てほしい」
 「えっ、今からですか?」
 「ああ。残業申請は週明けに頼む」
 急な会食なんて、この一週間で初めてだ。浜崎のことだから、事前にそういった予定があれば私にきちんと教えてくれるだろう。よほど急な開催だったのだろうか。
 せっかくの金曜日。できれば早く帰りたかったが、社長が仕事を円滑に進めるためのサポートが、秘書の勤めだ。
 この仕事こそ乗り切れば、本当の週末!そう心を切り替えて、社長に指定された場所に向かった。

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