第百話
「…………いえ。すみません。知り合いの友人に似ていたもので…………」
不思議そうな顔をしている彼女は、力なく手を離した俺の頬に優しく手を添えた。
「……大丈夫? ちょっと顔色が悪いけど」
「……っ! あ…………い、いえ。大丈夫です」
顔を覗き込んできた彼女に面食らい、どもってしまった。いい年してこのザマだ。
(カッコ悪い……)
もし彼女と再会した時には、余裕を持って話をしようと思っていたのに。
いざその時となると、酷く取り乱してしまう。
(本番となると、何事も計画通りにはいかないな…………いや、目の前の彼女は「彼女であって、そうでない彼女」だ)
俺の心に、ある言葉が浮かんだ。それは非現実的であったが、何故かしっくりきた。
——生まれ変わり。
いくら何でも成長が早すぎるとは思う。
まだ彼女がいなくなって2年しか経っていないのだから。
それに根拠もない。
(きっとそうだ。俺には分かる)
恐らく彼女は人間として生まれ変わったんだろう。
だから見た目は同じなのに、記憶だけがない。
これがもし記憶を保った状態であったなら……どんなに良かったか。
彼女は、和歌の姿をした別人だ。
性格や口調がまるで違う。
彼女はもっとおしとやかで、いじらしくて、謙虚で……。
だがそれでもいい。
こうして一目和歌と会うことが出来たんだ。
俺の想いは報われた。