第九十六話
この日は予定より早く仕事が終わったため、渡辺アミが待ち伏せしていると思われる正面入り口を避けて、機材の搬入に使う裏門から社員駐車場へやってきた。
車のロックを解除し、車内へ乗り込む。
「ルークさん! お疲れ様です!」
「なっ……!」
車のフロントガラス正面には渡辺アミが両手を広げて立っていた。
そのまま運転席の方へ回り込むと、窓ガラスをコンコンとノックしてくる。
俺は仕方なく窓を開けた。
「今日は遅くなるって言ってたのに、仕事終わるの早かったですね! 流石ルークプロデューサー! でも酷いじゃないですかっ。連絡くれないなんて。私も今から帰りなんですけど、良かったら一緒に帰りませんか?」
またか。
本当に見上げた執念だな。
「残念だが、今日は無理だ」
「えー、いっつも『今日はダメ』って言ってるじゃないですかぁ。付き合い悪いですよー。
私とルークさんの仲なのに……それに、たまにはこっちの方も……」
細い指を俺の肩に沿わせてくる渡辺アミに、ついに俺の我慢が限界に達した。
「……渡辺。これ以上俺の邪魔をするなら、お前を番組から降板させる」
「え!? ちょっ、ちょっと待ってください! それとこれとは関係が——」
「俺がスタッフの人事を取り仕切っているんだ。関係なら大いにあるだろう。
勘違いしないで欲しいが、俺は君の恋人じゃない。他を当たってくれ」