第九十七話
「……なんで。…………なんで私の気持ちを分かってくれないんですか!?
こんなにも……ルークさんが好きなのに…………」
好き、か……。
以前なら絶対胸に響かなかった言葉だ。
あの雨の日。
彼女が消えてしまったのは、俺に想いを寄せてくれる女達に、心を返さなかった報いなのかもしれない。
彼女の口から直接聞きたかった。
彼女から「好き」と言われたかった。
(渡辺……今の俺なら、お前の気持ちが痛いほど分かるよ)
「渡辺……」
俺は車から降りると、泣きじゃくる渡辺を抱きしめた。
「渡辺……。お前が俺のことを好いてくれる気持ちは、よく分かった。だが、俺はその気持ちに応えられない。
…………ごめんな。お前も……俺に囚われて、辛かったよな」
「え……? 『お前も』って………………ルークさん……?」
顔を上げた渡辺は、数年前に初めてテレビ局で会った時のまま、酷く幼かった。
(お前は、何も変わらないな……)
「気持ちには答えられないが、一つだけお前に贈るものがある」
「……なんですか?」
「終わったものからは、新しい発見は得られない。……俺の人生の教訓だ。
……前も言ったが、お前の人気はお前自身の実力だ。俺はお膳立てしただけ。……だからもう後ろを向くな。 自身を持て!
俺がいなくても……お前はよくやってるよ」
渡辺の目から湧き水のように溢れ出る涙は、俺のスーツを濡らした。
しかし不思議なことに、嫌悪感は全くなかった。
「……その涙は自分で拭けよ。…………明日の収録も必ず来い。いいな?」
泣き崩れる渡辺アミを横目に、俺は車を発進させ局を出た。