第八十二話
「ありがとうございます」
「あーもう敬語とかなくていいよ! ギクシャクしちゃって気持ち悪い。昨日みたいに呼び捨てでいいからさっ。……さっさと取り終わっちゃうわよ。
ほらっ。あんたたち、早く着替えてきて」
広瀬は面倒臭そうな顔で愚痴った。
「えー! 俺今日は午後からなのにー」
文句を言うなと牧野に背中を押され、広瀬は更衣室に押し込められた。
泉もおどおどとついて行くが、心なしか普段よりしっかりとした足取りだ。
今回は牧野さんのお蔭で救われた。
……いや、牧野でいいんだったな。
胸につかえていたしこりが取れ、晴天の元旦を迎えたような気分だ。
「牧野、ありがとう」
「別に? あんたが素直になったから、あたしもちょっとは素直になろうかなって」
「え?」
牧野は一瞬迷うそぶりを見せたが、すぐにいつもの勝気な顔に戻った。
「ううん、なんでもないわ」