第八十一話
「この間から妙に声が大きいから可笑しいと思ってはいたんですが……。私も早く気が付くべきでした。
妊娠されているなら、そうおっしゃってください。先月、社長と話をしまして、近々会社から妊娠中の手当てを出すような制度を設ける予定です。
この事務所で直接雇用しているのはあなた方を含め5名だけですが、もっと色んな人材を受け入れてこの会社を大きくしていかなければ、苦しくなるのはキャストの方々ですから。
いずれ3人には、先輩として演技指導をしてもらいたいと思っています」
「演技指導!? お、俺にそんな事出来んのかよ」
泉は激しく首を横に振っている。
「別に今すぐにとは言いません。ですが、ゆくゆくはそうなって欲しいと思っています。
なのでこれからも共に頑張らせて頂けませんか? ……お願いします」
俺はこれまでで一番丁寧に、深々と頭を下げた。
沈黙ののち、ポンと肩を叩いたのは牧野だった。
「湿っぽいねぇ。……あんたの気持ちは分かったよ。あたしらも体が資本だから。
そこまで大事にしてくれるっていうんなら、もう少し付き合ってあげてもいいわよ?」
俺が顔を上げると、牧野はニコッと口角を上げて笑った。