第七十七話
「ルーク」
先に口を開いたのは父さんだった。
息子の顔をよく見ようとカメラに近づいてくる。
「久しぶりだな。お前が電話かけてくるなんて、珍しいこともあるもんだ」
「そう言う父さんも元気そうだ」
「今しがた、母さんがここでお前と電話しているのを聞いたんだが……?」
こういう時、父さんは必ず眉間に皺を寄せる。
怒りの火山が噴火する前触れだ。
だが今は太い眉毛が下がり、眼鏡の奥から心配そうな視線を送っている。
父さんにそんな表情をされては、俺も調子が狂う。
ははっと笑い、心の動揺をごまかす。
「いやぁ…………父さん、大したことじゃない。……ただ、英語教室を継ぎたいと——」
「どうした、ルーク?」
父さんは全て分かっているようだった。
俺のことなんてお見通し。
昔からそうだ。いつも俺の一歩先を歩く。
「お前らしくない…………どうした?」
そっちこそ……どうしたんだよ。
「どうした」なんて、俺に聞いてきたことないだろ。
「……大丈夫か?」
父親らしからぬ優しい声が、俺の中にあったしがらみや、プライドや、何もかもを消し去っていく。
途端、急激に目頭が熱くなった。
おかしいな。
まだビールは半分も飲んでいないのに。
「ルーク……」
そんな風に言われたら……全部ぶちまけるしかないじゃないか。
「父さんっ……父さん俺っ……! ……テレビ局、クビになって…………今いる会社は……話したら軽蔑するかもしれないけど……AV動画を制作する会社で働いてるんだ。でも…………俺、もう疲れたよ」