第七十六話
毎年夏休みは家族全員でカナダへ帰り、今は亡き祖父の家に泊まるのが定番だった。
父さんの厳しい眼差しは祖父譲りだそうだが、同時に厳しい教育方法も教わったらしい。
俺がまだ小学生の頃、庭のプールにバイクでつっこみ大穴を開けたときなんかは烈火のごとく怒り、数時間家に入れてもらえなかった。
まあ俺が悪いんだが、今だったら虐待だと通報されるだろう。
それだけじゃない。
毎年クリスマスになるとツリーの下に置かれるのは、一般的な子供達が貰うようなゲームやおもちゃではなく、偉人の自叙伝や日本語ドリルだった。
欲しいと思うゲームがあれば、如何にそのゲームが有用で俺のためになるのか、父さんにプレゼンしなければならない。
当時は父さんの教育方法を恨んだものだが、今となっては感謝している。
(……2人とも年をとった)
英語教室を営むとはいえ、もう両親も今年で70歳近くなる。
社会人を対象とした英語教室には沢山の受講生が在籍しているのだから、老夫婦2人だけでは大変だろうと思う。
俺は社会人になってから、母さんと父さんに何かしてやれただろうか。
忙しく自分の人生を生きるだけで、一番大切な人をないがしろにしていなかっただろうか。
自問自答してみるが、答えはNoだった。