第五十八話
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空が夕焼けに染まる頃、俺達は車への道を戻っていた。
疲れているのか、足取りの重い彼女の背中を優しく押すようにして坂道を登っていく。
雲行きが怪しくなり、パラパラと雨が降りだした。
傘を持ってきていないため、近くに雨宿り出来る所がないか視線を彷徨わせる。
ふと、砂利道の外れに小さな東屋が見えた。
(あそこなら屋根もあって丁度いいな。雨も凌げるだろう)
「和歌、あの東屋で雨宿りをしよう。少し疲れただろうし、休憩も兼ねて」
「ええ」
(やはりおかしい。あんなに取材をしたかったはずなんだが……)
東屋の腰掛に落ちている木の葉を払い、彼女を座らせた。
既に東屋の入り口には水たまりがいくつもでき、憂鬱な雨音が草木を叩いている。
土と緑の濡れた匂いで、隣にいる彼女の香りがかき消されるのが何となく不愉快だった。
「結構降ってきたね……」
彼女の顔横に雨粒が光っている。
それをつうっと拭う彼女の繊細な指先につい魅入ってしまう。
「……そうだな」
彼女は「今日一日だけならいい」と言ってくれた。
しかし取材を始めてしまったらその後はどうなるのだろう。
根拠があるわけではない。