第五十七話
「そんな顔しないでルーク」
誰にだって、踏み込まれたくない心の絶対領域というものがある。
例外なく俺もそうだ。
赤の他人が俺の人生にいくら関わろうが、俺自身の問題に首を突っ込んでくるのは我慢ならない。
だが、彼女は心の障壁をいとも簡単に破壊し、攻略してくる。
長い間思い煩っていた俺の闇は、彼女の光に溢れた言葉で取り払われていく。
(分かっていなかったのは、俺の方だったな…………)
以前俺は、AVも立派な仕事に変わりはないと偉そうに言っていた。
だが実際はどうだ。
心のどこかで蔑んでいたのは俺の方じゃないか。
ピザばかり食う同僚や、泣き言だらけの女優、話を聞かない男優、能無しの社長。彼らだって、彼らなりの誇りを持っている。
最初から「彼らにプライドなどない」と決めつけ、期待すらしていなかった俺は、まさに「世の中の五万といる奴ら」の中にいる。
「……ああ。そうだな。ありがとう、和歌」
「いいえ」
俺達は長年連れ添った夫婦のような顔で、ふふっと笑った。
「ねぇ、もっと聞かせて? ルークの事」
今はカメラに瞬間を記録するより、時を流れる彼女を見ていたかった。