第五十六話
最後の台詞は俺の本音だった。
滅多なことでは人に本心を明かしたりしない俺が、自ら進んで喋るなどいつぶりだろうか。
このカメラを贈られていなければ、彼女の姿を写真に収めようと思わなかったかもしれない。
いや、彼女でなければ、例えカメラを贈られても撮影することはなかっただろう。
「いや、柄にもないことを言ったな。すまない、忘れてくれ」
意識して口角を上げ、彼女に微笑む。
それに応じるように彼女も優しく微笑み返してくれた。
「ルークは優しい」
「優しい? 俺が? まさか……。俺はそんな人間じゃないよ」
「でも、私は知ってる」
揺るぎ無い口調だった。
彼女は俺の何を知っているというのか。
知り合ってまだ日は浅いというのに。
「どうしてルークがテレビ局を辞めたのかは分からないけど、ルークが見せてくれる夢に救われた人は、沢山いると思うの」
「……和歌が思うような夢じゃない」
随分と棘のある声が出た、と思った。
彼女はそれでも微笑みを崩さない。
「そうね……。でも見せる夢は一つじゃないでしょう?
夢にも色々な姿や形がある。ルークはその中から、今自分が見せてあげられる夢を、皆に与えてるんだと思うの」
急に背中が暖かくなった。
彼女から触れてきたのはこれで2回目だ。
控えめにそっと背中に手を当てているところが彼女らしい。