第五十九話
(……予感か)
何故か漠然と彼女を失ってしまいそうな予感。
そんなモヤモヤとしたものが霧のように俺に纏わりついている。
ここでは俺は、やっと己に巣食うモノの存在に気が付いた。
(……失う? 俺は彼女の恋人じゃないぞ)
いや……、そもそも俺は、なんでこんな事をしている?
彼女を取材するためじゃなかったのか?
(取材……取材してどうなる?)
彼女のことを取材して、それをどうするつもりだったんだ俺は。
もうテレビ業界には戻れないというのに。
モデル事務所にでも売り渡すつもりだったのか?
いや違う。
彼女を売り渡すなど出来るわけがない。
なら何故取材する?
取材するなら世に発信するという行為もセットで付いてくるだろ。
プロデューサーごっこをしたいわけでもあるまいし。
目的を失った計画は失敗する。
これは万物の共通理念だと理解している。
俺はこれまで彼女の取材を行うため、着々と目標を達成し、彼女へと近づいてきたはずだ。
そして今日がその終着点だ。
俺は心の中に、子供じみたある感情が渦巻いているのを見つけ出した。
(取材したくない……か。馬鹿か俺は。何のために今まで時間を費やしたと思っている? 矛盾しているぞ)
支離滅裂。今の俺を表す最も適切な表現だ。