変な夢
その日の夜は、珍しく夢を見た。
私はまだ子どもで、肩車をされていた。すごく高く感じて、はしゃいでいた。
ふと見ると、肩車をしてくれているのは、『カズナリ君』だった。
彼は、頭上の私を見上げて、やさしく微笑んでいた。
ブブッ
スマホのアラームが鳴って、即起きた。いつも曲が鳴る前のバイブの時点で起きる。セッティングした曲が鳴ることはない。
「・・・へんな夢」
二度寝してやろうかと思ったが、やることがあるから起きた。
朝ごはんを太一に食べさせて、一緒に家を出た。太一は学校、私は職場だ。今日は水曜日だから、ペットボトルを捨てる日だ。片手にカバン。片手にゴミ袋で出発した。
「あっ!カズナリ君!」
太一がランドセルを激しく上下させ、ダッシュする。
「ん?おっす」
『カズナリ君』がゴミ捨て場の前にいた。ちょうどゴミを棄てたところらしい。向かってきた太一に片手を出した。太一はその手に向かって振りかぶるようにして、タッチする。
それに合わせて、『カズナリ君』は大きな手をひらめかせて調節し、渇いたとてもいい音が鳴った。痛くもなさそうだ。
こういう風に遊んでいるのだろうか?相手の力に合わせるように、相手と常に楽しめるように。
私には出来ないな、と思った。こういうことを自然にできるのは羨ましい。
そういえば、夢に出てきた『カズナリ君』もずいぶんやわらかく微笑んでいた。まるで包み込まれているような気分だった。
私が半分夢の中にトリップしてぼんやり見ていると、『カズナリ君』は何を思ったのか、片手をさしだしてきた。
ん?と思って目を見ると、彼も、ん?と微笑んで待ち構えていた。
・・・タッチしろということなのだろうか。こういうのは学生の時以来だ。また、ほぼ初対面の相手にそんなことをしていいのだろうか、というか両手塞がっているし。
私はしばし戸惑った。
「姉ちゃん、ノリ、ワリー」
硬直した二人の間で、太一が言った。
「おはようございます」
私は代わりに頭を下げた。向こうも「おはようございます」と返してくる。手は引っ込められた。
私はゴミを棄てた。
背後で太一が「カズナリ君、いまから寝るの?」と聞いた。
「うん」
「ダメ人間だなー」
「フッ、朝寝は大人の嗜みさ」
「カッコよく言ってもダメー」
二人は笑った。
「太一、行くよ」
「うん。じゃ、またあとでねー」
「はいよ。いってらっしゃい」
『カズナリ君』はちらりとこちらを見て、「お姉さんも、いってらっしゃい」と微笑んだ。
一瞬迷って「はい。いってきます」と私は答えた。
すると、『カズナリ君』は殊更嬉しそうに笑みを深くした。とても大きいのに、まるで純真な子どもみたいだった。
私は振り返って、駅へと歩き出した。横を見ると、太一はまだ後ろ向きで手を振っていた。その隙きに、頬を触った。少し熱くなっているかもしれない。
『カズナリ君』のことを、ちょっとかわいいと思ってしまったのだった。
いつの間にか前を向いていた太一がため息をつく。
「あー、オレも早く大人になりてー。そしたら、朝までゲームしてから寝るんだー」
私は少し笑ってしまった。『カズナリ君』みたいになった太一を想像した。朝から二人でゲームして、笑っているのだ。
子どもの発言って、こういう自由さが面白い。けど、私はつまらない大人だから、一応言っておいた。
「・・・やめてね?」