第四十四話
俺はここへ来たら、必ずこの茶屋に寄ることにしているのだ。
この店にあるメニューは全て味見し、知り尽くしている。
正直今は団子の味などどうでもいい。
彼女はとても喜んで食べてくれている。
それだけで十分だ。
さも自分が菓子を振る舞ったかのような気持ちになるのは、茶店への愛着故か。
「ウィルソンさんも、甘いものがお好きなんですね。カフェでブラックコーヒーを飲んでいらしたから、てっきり苦手なのかと……」
「確かに甘すぎる物は敬遠しがちですが、この店で出される和菓子はお茶の苦みで程よく甘くて、私でも美味しく感じるんです」
彼女は口元を隠し、うふふと笑った。
……うん?
口元の上の方に餡子が付いている。
さっきから彼女は夢中で食べていたからな。
意外と子供っぽいところもあるのか。
皿の草団子を爪楊枝で突き刺し口に運ぶ彼女は、未だに餡子の存在に気が付いていないようだ。
「……餡子付いてますよ」
俺はそっと指先で拭い、そのまま餡子を唇で食んだ。
彼女は瞬きを忘れたように固まっている。
(しまった! ついやってしまった!)
今のは流石にまずかったと思ったが、時すでに遅し。
彼女の意識は現実から遠い所へ行ってしまった。
考えもなしに体が動いたと言い訳してみるか?
いや、そんな都合の良い話を信じてもらえるとは思えない。