第四十三話
「……ルリビタキです。子育てがひと段落したんでしょうね」
彼女の唇が優しく弧を描く。
思わずその熟れた唇に注目してしまい、俺はあまりの清艶さに見惚れた。
カフェで話した時から思っていたのだが、彼女はどこか母性的な雰囲気を纏っている。
彼女が微笑む度、心のそこかしこに温かい何かが溢れてくる。
今日の彼女も以前と変わりないはずなのだが、20代くらいの若さがありながら、それでいて落ち着いた話し方に、俺は翻弄されっぱなしだ。
軽く咳ばらいをして気を取り直す。
「何故、そうだと分かったんですか?」
清らかな瞳に俺の顔が映し出された。
「……そう言っているように聞こえたんです」
「失礼します」と会話が中断される。
縁台の上に敷かれた
丁度俺たちの間に菓子類が載った盆が置かれたため、2人でハの字になるように座り直した。
餡子の載った草団子を、どちらからともなく爪楊枝で頂く。
「んっ……美味しい!」
彼女は顔を蕩けさせ、両手で頬を押さえている。
彼女はこんな顔もするのか。
初めて見る表情に俺は舞い上がってしまい、もはや味が分からない。
「うん、美味しいですよね。この甘い餡子と抹茶がまた合いますね」