第三十七話
「わかりました。それがお詫びになるのなら……」
はにかむように笑う彼女につられて俺も笑顔になる。
もう少し彼女と話をしていたいという欲求を抑え込み、携帯の画面にちらりと目をやった。
表示されたメッセージの送り主は
——渡辺アミ。『前見て!』
メールを受け、頭が勝手に指示に従う。
遥か前方の方から、奴が大きく手を振っている。
あの派手なドレスを着ていれば、どんなに遠くにいたって奴だと分かってしまう。
(あの女……!)
「……もう12:00ですね。本当なら昼食をご一緒したいところですが、急に仕事の連絡がありまして……駅まで送りますよ」
予定変更だ。
昼食を一緒に取れないのは残念だが、今は奴に邪魔されると困る。
「そうなんですか……。分かりました」
少し残念そうに笑う彼女が狙い通りの反応で、俺は内心ほくそ笑む。
(彼女の場合、無理に囲い込むよりは、ある程度距離を保っていた方が気を引くことが出来るだろう)
どの道また会う約束を取り付けたのだ。
目標の一つを達成した俺は、ここで予定通り、ある程度の満足感を得た。
たった一つ誤算があったとすれば、渡辺アミの俺に対する執着心か。