第三十八話
駅前の噴水広場に戻り、来週の待ち合わせ場所と時間を決めた後、俺は彼女にあっさりと別れの挨拶を告げた。
彼女が駅の人混みへ消えていくのを確認した後、俺は渡辺アミに電話をかけた。
「あ、ルークさん? 番号登録してくれたんですね!」
「そんなことはどうでもいい。どうして俺に付き纏うんだ?」
奴とは横断歩道を挟んでいるが、あの化粧臭い香りがここまで漂ってきた気がした。
「だって、私ルークさんのこと……」
この流れはまさか。
「ずっと、前から、好きなんです!」
またか。
「お前とは何回か寝ただけの関係だったろう。俺の彼女にした覚えはないが——」
「忘れられないんです! ルークさんの声も、ルークさんの体も……。
私を日の丸テレビで初めて使ってくれたのは、ルークさんなんです。
ルークさんがいたから、私人気になれたんです!」
「人気が出たのはお前の実力だ。俺はただキャストを揃えただけ——」
「でも私! でも私…………この、ままじゃ………………」
信号が青に切り替わる。
大勢の人間が俺達だけを置いて通り過ぎていく。
悲痛な彼女の嗚咽が、耳にあてた携帯のスピーカーから流れてきた。
……俺はまた、女を泣かせるのか。
「…………今日だけだ」
そう言い残し、俺は携帯の電源を切った。