第三十三話
店を出て、どこに向かっているのかも分からないまま2人は歩き出す。
今はとりあえず駅の方面を目指している。
彼女の様子を伺うと、美味しい飲み物で気力が回復したようで、噴水広場で会った時より元気になっている。
緊張の糸もほぐれ、小さな頭を動かして周辺の様子をきょろきょろと見回す余裕も出てきたようだ。
(さて、どうするか……)
このまま彼女を返してしまうと、何か理由がない限り会うのは難しいだろう。
取材の許可が下りなければ、明日からの彼女に会う口実が無くなってしまう。
(このまま昼食に誘って断られる可能性はまずないと考えていい。彼女自身お詫びをしたいと言っていたのだから。しかしその前に……)
「……宜しかったら周辺のお店を覗いてみませんか? この辺りは詳しいので、色々と案内できますよ」
「いいんですか? 実はちょっと行ってみたかったんですけど、一人で行く勇気がなくて……」
彼女は苦笑交じりに頭をかいた。
袖からするりと覗く白い腕は陶器のようで、一瞬ドキリとさせられる。
「そうでしたか……。それなら、駅前近くに人気のアパレルショップがありますから、そちらに案内しましょう」
本当に彼女は何者なのだろう。
日本でこのような衣服を着る習慣は冠婚葬祭ぐらいのものだが、彼女はこの着物しか持っていないと言っている。
今時そんな日本人はいないだろう。
(いや、今は彼女のことに触れるのは避けたほうがいい。完全に警戒心を解いて、それから……)
俺は彼女とたわいない話をしながら、頭の隅で結論をまとめた。