第三十二話
彼女と話していると何故か普段のクールな自分を保てない。
この俺が振り回されているのか、それとも久しぶりの被写体にぎこちないだけなのか……。
言葉を交わす度、ますます謎が深まるばかりである。
もっと知りたいと思う。もっと教えて欲しいと思う。もっと……。
「ウィルソンさん」
どうやら己の考えに集中し過ぎていたようだ。
彼女の呼びかけではっと我に返る。
「ありがとうございました」と携帯を差し出されているのに気が付き、慌てて受け取った。
少し休憩するつもりが、かなり話し込んでしまった。
今は何時だろうか?
時間を確認する。
11:40。
「もうすぐお昼ですね。そろそろ行きましょうか」
さり気なく伝票を取り、レジに向かおうとする俺を彼女は呼び止めた。
「あ、お会計なら私が……!」
財布からお金を取り出そうとする彼女を優しく宥める。
「ここは私に払わせてください」
「でも……」
彼女は遠慮してなかなかその場を動こうとしない。
「今日は私が和歌さんに、先日のお詫びをしたいのです。お気になさらないでください。
それに、和歌さんのお話はとても興味深かった。拝聴料ということで、どうでしょう?」
「……わかりました」
照れと困惑が綯交ぜになった表情に、俺は思わず口元を押さえて会計所へ向かうのだった。