第三十一話
……は?
今彼女は何と?
カナダはどこにあるのですか、だと?
何の冗談だ。
「カナダをご存じないですか?」
「ええ。私はこの国から一歩も出たことがありませんから……海を渡れば外国があるというのは知っているのですが、どこにあるかまではちょっと……」
あのカナダを知らない?
国の面積が世界で2番目に大きいあのカナダを?
メープルシロップで有名なあのカナダを?
皆さんは、思考停止した人間の顔を見たことがあるだろうか?
俺は今、とんでもない間抜け面を彼女に晒しているに違いない。
時間ギリギリの生放送番組を裏から見守っていた時さえ、ここまで動揺することはなかったぞ。
「……あの、これです」
携帯で世界地図を画面に表示し、彼女に見せた。
「わぁ! ここがカナダ……! とても大きな国なんですね」
世界地図に目を輝かせている彼女を、遠くからウエイトレスが可哀そうな目で見ている。
彼女が重度の箱入り娘だとしても、お前にそんな目を向けられる筋合いはないと、俺はウエイトレスへ睨みを利かせた。
このタイミングで彼女を庇う俺も、どうかしている。