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第三十話

「その……例え日本人の血が流れていなくても、この国に長く住んでいる方にとって、故郷であることには変わりないと思うんです。

その血が流れている私のような人も、住む場所が変われば例外じゃない。

そういう意味で、一応と……」


慎ましやかな話し方から滲み出る知性は、留まることを知らず。


カナダ人である俺も、一時期アイデンティティが分からなくなったことがあるが、彼女の言うことには激しく同意する。


何故なら俺はカナダ人であって、日本の文化が沁み込んでいる日本人でもあるからだ。


この感覚を分かってくれる日本人は、残念ながらまだまだ少ない。


理解していたはずだが、口から飛び出た馬鹿な質問に、俺は恥ずかしくなった。


彼女はそんな俺の気も知らず、呑気にキャラメルマキアートを啜っている。






「ところで、ウィルソンさんの言うカナダとは、どこにあるのですか?」

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